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ゲノム編集で不妊症の原因を解き明かす

河野 菜摘子 河野 菜摘子 明治大学 農学部 准教授

不妊症治療に活かす研究を目指す

河野 菜摘子 受精においてもうひとつ注目しているのが、どんな精子でも無条件で卵子と受精できるのか?という点です。

 先に述べたように、ヒトの場合、一回の射精で約3億の精子がありますが、そのうち、卵子と受精する精子はひとつです。

 このひとつの精子は、偶然によって受精するのではなく、メスによって選ばれしものなのではないかと考えています。

 つまり、免疫機能も含めて、メスは精子に淘汰圧をかけ、最後はなんらかの基準でひとつの精子を選んでいるのではないかと思うのです。

 この選ぶしくみがどういうメカニズムなのか、まだ、わかっていません。オスもわかっていないので、3億という数で勝負しているのかもしれません。

 私たちの研究室では、コリドラスという熱帯魚による実験も行っています。

 この魚には不思議な生殖行動があります。メスがオスの精子を飲み込み、消化管を通し、お尻から出てきた精子を自分の卵にかけて体外受精を行うのです。

 この奇妙奇天烈な行動の理由はまだわかっていません。メスの消化管を通ることで精子の受精能が高くなる可能性もありますが、普通に考えれば、消化管を通ることで精子は免疫作用だけでなく消化作用を受けるはずなので、弱ってしまうはずです。

 この変な行動をするコリドラスにはもうひとつ、他の魚にはない特性があります。

 それは、コリドラスのオスは精子がすごく少ないということです。一般的に、産卵期になるとオスもメスもお腹の中に精子と卵子を大量に持つようになります。しかしコリドラスのオスは、性成熟を迎えても、ほんのちょっと精子が居るだけです。

 つまり、ヒトも含めて多くのオスは、受精において精子の数で勝負しますが、コリドラスは少ない精子で効率良く受精しているのです。

 コリドラスの生殖メカニズムが解明されると、体内受精の認識が大きく変わるかもしれません。そんな可能性を秘めた研究です。

 妊娠のメカニズムは、まだ解明されていないことが多く、そのため、不妊治療のツールが限られています。

 いま、不妊で悩んでいる方も悲観しないでいただきたいと思います。科学も医療も凄いスピードで進歩しています。

 先に述べたゲノム編集も、数年前から見ると、夢のような技術です。

 しかし今では、研究室に入ったばかりの学部3年生でも利用できるほど、身近な技術になっています。

 私たち研究者の使命は、その研究成果を社会に還元することです。私たち研究室の成果は、不妊に悩んでいる方々のお役に立つようになることを目指しています。

>>英語版はこちら(English)

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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