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2019.08.07

生物化学は、「より良く生きるための医療」に貢献する

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歯周病も大きな問題

 また、意外と見落とされがちなのですが、健康寿命という観点で重要なのが、歯周病対策です。

 食べ物が食べづらくなれば、栄養を摂るという点はもちろん、生活を楽しむということも非常に損なわれてしまうからです。

 歯周病が、いわゆる虫歯よりも問題なのは、治療が難しいからです。

 そもそも、人の口の中にはたくさんのバイ菌がいます。そのなかには、いわゆる善玉菌もいれば、悪玉菌も共生しています。

 このバランスがとれていると良いのですが、歯磨きなど歯の清掃が充分にされず、悪玉菌が活性化すると、歯に穴を開ける「う蝕」が起きたりします。これが虫歯です。

 さらに、細菌が感染し、それが歯と歯肉の境目にどんどん溜まっていき、歯肉の辺縁が炎症を起こすのが歯周病です。進行すると、歯茎が下がってしまい、歯が露出したりします。

 虫歯が進行すると、歯を抜いて入れ歯にするなどの治療を行うことがありますが、歯周病が進行すると、歯が収まっている顎の骨の部分も溶かされてしまい、入れ歯をしたくても、それを立てる土台がないという状態になってしまいます。

 そのため、まず、顎の骨の溶けた部分から治さなければならなくなり、治療が大変になるのです。

 歯周病は、もちろん、若い人にもあるのですが、口腔ケアが不十分であったり、自浄作用が低下してしまったりすることで、細菌が溜まっていくことによって起こるため、高齢者の罹患率が増加傾向にあります。

 死に至るというような疾患ではないため、あまり重大な疾患と見なされないのですが、近年、様々な生活習慣病と関連していることも報告されていて、歯周病は口だけではなく、全身の健康とも密接に関係するので、楽しく生きるという意味でその予防は大きな課題です。

 そこで、私たちは、顎の骨の治療のために、骨粗鬆症対策で行っている骨の再生の研究を応用するとともに、細菌がどうやって歯に付着するのか、細菌の増殖をいかにして抑制できるか、といった研究も行っています。

 そのなかで、いま、注目しているのが、抗菌性のタンパク質です。実は、自然界には様々な抗菌性タンパク質がたくさんあるのですが、なぜ、抗菌性が発現するのか、解明されていない部分があります。

 そのメカニズムを解き明かすのが生化学の分野であり、その研究成果を基に、抗菌性を効果的に発揮する歯磨き粉や、治療薬を開発することを目指しています。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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