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2024.10.31

経済安全保障から解釈する日本の韓国への輸出規制——日韓は何を得て何を失ったか——

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日本の輸出規制で韓国が失ったものと得たもの

 そして、日本による対韓経済制裁は、ついには東アジア地域の安全保障の問題にまでエスカレートしていきました。

 2019年8月、日本政府が対韓制裁の根拠として韓国の安全保障上の問題を指摘した点に対応して、日韓間のGSOMIA(秘密軍事情報保護協定)を延長しないと韓国政府が表明したのです。GSOMIAは北朝鮮に関する軍事情報を多国間で共有する基礎となるため、その更新拒否は東アジアのみならず米国の安全保障上でも極めて重大な問題になります。

 それまで日韓の応酬を静観していたアメリカもついに腰を上げ、国防長官らを派遣して韓国側を説得し、これを受けて韓国政府は協定終結決定の効力停止を発表しました。しかしこれ以降、韓国のWTO提訴撤回と「ホワイト国」(24年現在は「グループA」に名称変更)復帰までには、実に4年もの歳月が必要となるなど、両国の外交に大きな禍根を残しました。

 私は、この間の日韓の応酬は、歴史問題での対立から互いに仕返しのような形で制裁を続けるなかで、二国間の問題を超え、アメリカと中国そして北朝鮮といったプレーヤーが関与するアジア太平洋地域全体の安全保障を脅かしたケースであると考えています。そして、これによって両国が何を得て、何を失ったのかを冷静に顧みるべきだと思います。

 事実を指摘すると、経済制裁によって韓国は日本が期待するような対応をとることはありませんでした。むしろ興味深いことに、経済的相互依存を脱して半導体素材の国産化に切り替える契機になった面があります。

 韓国の論文ではよく、この一連の対立の結果として「韓国が日本からデカップル(decouple)した」という表現が使われますが、ようするに、結果的に韓国経済は日本から独立し、日本政府は韓国の半導体産業の発展に大きく貢献をしたと、ある意味では逆説的に論じられているのです。

 一方、日本は半導体素材の大きな輸出先であった韓国市場でのシェア獲得が課題として残りました。現在、日本政府が巨額の補助金を出して台湾の半導体メーカーTSMCの工場を熊本県に誘致するなどの動きがありますが、この間の日本の経済的損失については総括する必要があるでしょう。

 日韓関係については、文在寅政権が終わり、現在の尹錫悦政権は保守政権であり、日韓関係の改善へと努めています。

 韓国の大統領は日本の首相と比べて政権・世論に対して非常に大きな影響力を発揮できますが、5年の任期が残り少なくなるとレームダック(求心力を失った状態)と呼ばれるような状況になる傾向にあります。その意味では、終盤に突入する尹政権が日本の政権とどれだけ良好な関係を構築して任期を終えるかに注目したいと思います。

英語版はこちら

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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