CPTPP参加を希望する韓国と中国をめぐる事情
また、CPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定)における日本のリーダーシップと、韓国の参加の行方についても注目しています。
「アメリカ抜きのTPP」であるCPTTPは日本の主導で2018年に発効しましたが、もともとTPP非参加国である韓国がこれに加入するためには、現在時点ではイギリスを入れた12カ国全ての参加国の同意が必要になります。
文在寅政権時には日韓関係が戦後最悪とも言われるなかで、CPTTPをリードする日本の同意を得られる状況にありませんでした。一方、岸田首相とも良好な関係をつくっている尹政権においては希望的観測も出ていますが、現実問題としては、なかなか加入実現の目処が立っていません。
その理由としては、ひとつは尹大統領が国内において政治的基盤が非常に弱いことがあげられます。また、CPTTPは「21世紀型のFTA(自由貿易協定)」とも呼ばれる非常に高いレベルの協定であり、二国間FTAに見られるような関税に関する一部品目の例外規定が存在しないため、韓国の農民層が非常に強く反対しているという事情があります。
さらに言えば、韓国には北朝鮮問題がありますので、政治的にはアメリカ側の国に依存していても、経済の面においては中国にも強く依存しています。米国の軍事的支援も必要とする一方で、中国の巨大なマーケットを失うわけにはいかない。韓国にとっては、いわゆる西側諸国と中国とのあいだでうまくバランスを取らなければならないという非常に微妙な立ち位置にあります。
なお、TPPからアメリカが離脱したことで、地域の主導的な役割を目指す中国がCPTTPへの参加を希望していますが、これには日本などが反対していると言われています。経済安全保障の文脈では、大規模な経済貿易協定は政治的なつながりを形成しますので、締結国や地域の安全保障と密に連関することになります。米国の動向はもちろんですが、日本と中国が抱える歴史問題の影響も軽視できないでしょう。
グローバルな経済活動が行われている現代においては、歴史認識のような政治問題は外交だけでなく、貿易や経済を通じてエスカレーションし、最終的に関係国や地域一帯の安全保障を脅かす結果を導くことがあります。その錯誤や失敗を生じさせないために、私たちには長期的利益と安定を目指す幅広い視野が求められていると思います。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。