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日本のマンガは、日本の人々を多面的に写し出してきた鏡である

森川 嘉一郎 森川 嘉一郎 明治大学 国際日本学部 准教授

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昔は低俗なサブカルチャーともみなされてきたマンガやアニメ、ゲームですが、近年では日本を代表する現代文化として政府などに国際舞台で利活用されるようになっています。さらに、海外の美術オークションでマンガの原画に数千万円の値がつく事例もでてくるようになりました。私たちはこうした状況をどう捉えたら良いのでしょう。

日本独特の発展を遂げたマンガ

森川 嘉一郎 マンガやアニメの研究資料を扱う上で、良くも悪くも新たな状況が、2018年から現れました。サザビーズやアールキュリアルのような、権威ある国際的美術オークションで日本のマンガやアニメの原画類が出品され、高額で落札されるようになったのです。

 原画類は以前から国内外のマニア向けの市場では流通しており、私自身、そうしたルートでさまざまな資料を研究のために入手してきました。価格はピンキリですが、有名なアニメ監督による直筆原画などは、作品そのものというよりは中間制作物であるにも関わらず、数百万円の値が付くことも珍しくありません。

 そうした原画やセル画が、高名なオークションで美術品として扱われることで、価格がさらに一桁跳ね上がりました。2018年には大英博物館で本格的な日本のマンガの企画展が開催されましたが、そのような動向も背景に、投機的な価値があると見なされるようになったのでしょう。

 マンガやアニメはさまざまな国で作られており、とりわけディズニーの作品群は20世紀中葉から後半にかけて、アメリカの国際的な文化的覇権の一角を担いました。そして1990年代あたりから、それに伍して、日本のマンガやアニメが国際的浸透力を持ち、文化としても評価される状況にいたりました。それは、ディズニーとは方向を異にした、独特の発展によるところが大きいと考えます。

 その発展の大きな基盤となったのは、日本の人々が、子供のみならず、幅広い世代にまたがってマンガを読むようになったことです。かつては日本でも、一部の風刺漫画などを除き、マンガはもっぱら子供が読むものと見なされていました。その状況を変えていくことになったのが、戦後のベビーブーム世代、いわゆる団塊の世代です。彼らが小学校高学年くらいになった1959年に、まさに彼らに向けて、それまでになかった新しいメディアとして、週刊少年マンガ雑誌が登場しました。しかも、『週刊少年サンデー』と『週刊少年マガジン』の二誌が、競り合う形で同時に創刊されたのです。

 結果、マンガ誌は彼らにとって世代体験を構成するメディアとなり、中学、高校に上がっても読み続ける人々が珍しくなくなりました。そして彼らが成人する前後の年齢になる1960年代末頃には、大学生が電車の中でマンガ誌を読みふける様子を見て、上の世代が目を丸くするようになります。

 大学生が今よりずっとエリートだと見なされていた当時、おりしも学生運動が燃えさかる中、マンガ誌を公然と読むことは、反体制的な世代意識を表明するファッションとしても機能しました。「右手に(朝日)ジャーナル、左手に(週刊少年)マガジン」という、当時のフレーズが、そのような当時の気分を物語っています。

 一方、たとえば、まさにその「週刊少年マガジン」誌上で当時連載されていた『あしたのジョー』では、ファッショナブルな青春を謳歌する同世代の若者たちを横目で見る、ドヤ街に生きる主人公の眼差しがまざまざと描かれています。学生運動とともにミニスカートやグループ・サウンズ、ゴーゴー喫茶といった「若者文化」が社会の前景に台頭する中、大学進学率が2割前後だった当時、そうした「若者文化」の裏側にいた、むしろ大多数の読者の存在や意識に寄り添っているわけです。

 そして、以降に青年や大人となった後続する世代に向けて、青年マンガ誌やビジネスマン向けマンガ誌が次々と現れました。団塊の世代が中年になる頃には、『マンガ日本経済入門』がベストセラーになったりもしました。

 また、戦前からの少女雑誌から派生する形で少女マンガ誌も数多く生まれ、少女向けのマンガが少年向けと双璧をなすようになったことも、他国にはない、日本独特のことです。やはり、読んで育った世代の成長とともに、若い女性向けのマンガ誌、レディースコミック誌、さらには中高年の女性向けのマンガ誌などが生まれました。

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