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日本の「多文化共生」という概念を見直す時が来ている

昔農 英明 昔農 英明 明治大学 文学部 准教授

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2020年11月にスポーツ用品メーカーが公開したCMが、日本社会の人種差別問題を取り上げていると話題になり、ネット上では賛否両論が起こりました。しかし、問題はそのCMの表現ではなく、このようなCMが物議を醸す原因が、いまの日本社会にあるということだと言います。

実は、日本は多民族社会

昔農 英明 2020年11月にインターネット上で公開されたスポーツ用品メーカーのCMをめぐって論争が起きました。

 そのCMとは、在日コリアンやアフリカ系にルーツをもつように見える女子生徒が、学校で差別やいじめを受け、「私はここにいてはダメなの?」とまで悩み、落ち込みますが、スポーツを通して乗り越えようとしていくストーリーです。

 このCMに対して、インターネット上では賛否両論が起きました。感動した、共感を抱いた、感情移入した、という肯定的な意見がある一方で、日本人全体が民族的少数者をいじめているように思わせるとか、日本には、そもそもそのような差別などほとんどないという意見です。

 また、このスポーツ用品メーカーがアメリカに親会社のある企業なので、アメリカには酷い人種差別があるのに、それを棚に上げて日本を貶めている、という批判意見もありました。

 CMの公開から約1週間で、YouTubeで1000万回以上の再生回数があり、Twitterでリツイートを含めて25万件の投稿が寄せられたと報道されており、このCMが非常に高い関心を呼んだことがわかります。

 私は、このCMが物議を醸したことに注目しました。

 例えば、日本には差別などないという意見がでてきたのは、日本社会の現状がきちんと認識されていないことにひとつの要因があるように思われます。つまり、差別のあるなしに対する認識以前に、日本には「住んでいる外国人はほとんどいない」ために、「外国人」に対する差別やいじめの問題は、「他国の問題ではないのか」という認識が少なくないのではないかということです。それゆえに、日本社会ではそのようないじめや差別はほとんど存在しないことになっているのではないでしょうか。

 このような認識の前提となっているのは、「日本は単一民族国家である」という理解にあるように思われます。日本社会において「外国人」というカテゴリーは、観光やビジネスのために日本を訪れ、一時的に滞在しているだけで、いずれ自分の国に帰っていく、いわば「お客さん」なのです。

 日本人はそのような人には深く関わらず、お客さん扱いするのですから、差別などない、ということになります。

 ところが、いま、日本に在留している外国籍の人は、約300万人います。国際結婚によって日本で生まれた子どもは約50万人います。さらに日本国籍を取得した人も約50万人いるといわれています。つまり、外国にルーツをもつ人が約400万人、日本で暮らしているのです。

 この外国にルーツをもつ人は「お客さん」ではなく、日本に暮らしている「移民」です。でも、日本社会では移民というカテゴリーはほとんど認知されていないのです。

 日本は「単一民族国家」ではなく、すでに、多様な民族的・文化的な背景を有する人々が暮らしている、移民を有する国家なのです。そこには、当然、様々な軋轢や問題も生じることがあります。でも、この社会が多くの移民が暮らしている社会であるという認識がなければ、そうした軋轢や問題が認識されません。つまり、可視化されないのです。

 だから、冒頭に紹介したようなCMに対して、日本社会を貶めているとか、あり得ないという意見が出てくるのではないでしょうか。

 では、なぜ、そのような状況が生まれているのか。それは、政府が、日本が多民族社会であることをきちんとメッセージを発信せず、移民の存在が不可視化されているからではないでしょうか。

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