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世界遺産に登録された日本の古墳には、世界に誇れる特異性がある

明治大学 文学部 准教授 若狭 徹

2019年7月、国内最大の前方後円墳として知られる「仁徳天皇陵古墳」(大山(だいせん)古墳)を含む百舌鳥・古市古墳群が世界文化遺産に登録されました。国内では、自然遺産を含めて23件目の登録です。これをきっかけに、日本の古代史に関心を寄せる人が増えるのではないでしょうか。この古墳群の意義とはなにか、あらためて考えてみましょう。

古代人たちは率先して前方後円墳造りに参加した

若狭 徹 日本の3世紀の中頃から6世紀の終わりまでの約350年間を、古墳時代と言います。この時代は、前方後円墳だけではなく、方墳や円墳など、様々な形の墳墓が全国で数十万基も造られています。実は、これは日本の特異な文化なのです。

 王様の巨大なお墓を造る習慣は、世界にもたくさんの例があります。例えば、エジプトのフォラオのピラミッドや、中国の皇帝陵などです。それらが造られた時代は、王の権力が非常に強く、専制的な仕組みがあったのが一般的です。

 ところが、日本の古墳時代は、畿内の大王を中核とした「ヤマト王権」の時代なのですが、王権の権力はそれほど強くなかったのです。

 例えば、6世紀に「継体」という大王(天皇)が即位します。この大王は、応神大王の五世の孫と『日本書紀』に記され、いまの福井県地域から大和入りしますが、実質的には中央で政変があったことで、地方豪族であった彼が押し立てられて即位したわけです。それが、体(政治体制)を継ぐという呼称に表れています。

 このように、ヤマト王権の基盤は強固ではなく、政治的な組み換えが容易に起こりうるものでした。前方後円墳という存在がそのことを如実に示しています。

 全国に数十万基ある古墳のうち、前方後円墳は最上位のお墓の形であり、350年の間に約5000基が、岩手県から鹿児島県に及ぶ範囲で造られました。つまり、前方後円墳の広がりは、ヤマトを中心とした豪族連合の広がりであると考えられるのです。

 しかも、大王だけが特別な形の墓を造るのではなく、大きさが異なるとはいえ同じ形の墓を豪族たちが共有している。このことが、王権を中心とした「緩やかな連合」という古墳文化の特殊性を示しています。

 各地の豪族たちは、その地の王に就任するとヤマトとの友好関係を確認し、連合の証として前方後円墳を造ることを承認されたとみられます。つまり前方後円墳を造れる豪族は、方墳や円墳を造る豪族より中央との関係が密接であったことが分かります。前方後円墳はいわば、ヤマト王権のメンバーズカードです。

 前方後円墳システムに加入した豪族は、中央と同じ祭祀を行い、同じ思想を共有する安全保障体制に加わったことになります。同時に、地方では手に入らない物資、例えば、朝鮮半島に由来する鉄資源などが送られるネットワークに連なります。加えて、地方が渇望している新しい技術ももたらされました。

 一方、地方豪族たちは、地元で採れる産物を中央に貢納するとともに、豪族の子女などの人的資源も中央にも送り込んだのです。王権側は、そうした人材を宮廷で活用するとともに、そのパイプを生かして地方豪族とがっちり手を結びました。

 すなわち、ヤマトを中心とした豪族連合体とは、武力によって征服したり、征服されたりという関係ではなく、いわば現代のEUのような経済ネットワークを中心としたものであったと考えられます。

 豪族とその配下の共同体にとって、ヤマト王権への参入は、自分たちに豊かな生活をもたらす、実利のあるものでした。地方の王は、即位すると速やかに大王と面会し、連合の継続と前方後円墳築造の承認を得て、生前から前方後円墳造りに着手したと考えられます。

 前方後円墳は、王が死ぬまでの長い期間をかけて造られたのでしょう。前方後円墳は、共同体に富をもたらすシステムのシンボルです。したがって、強制労働のような形ではなく、住民たちは率先して古墳造りに参加したのではないかと思います。

 また、古墳づくりに参加することで、王に集まった富が、住民たちに再分配される仕組みがあったと思います。古代の王は、共同体に認められるためには「気前良さ」が必要だったと考えられます。つまり、前方後円墳造りは苦役ではなく、社会の維持に必要な社会的な装置だったのです。

 しかも、エジプトのピラミッドが100基程度と言われているのに対して、日本の前方後円墳が5000基も造られているということは、地域を統べるような大豪族だけでなく、小豪族でもヤマトと関係を結べる仕組みがあったとみられます。例えば、港湾主、牧場主、市場の管理者、海人の長、特殊技術者などです。

 そのため、仁徳陵古墳のように長さ500mもある巨大なものから、10m程度のものまで、大きさに差があるのです。

 つまり、前方後円墳は、大陸にまで伸びた広範な経済連合、豪族間の安全保障体制を表すブランドであり、その事実を皆に示すランドマークでした。それが列島の隅々まで張り巡らされて、墳墓によって可視化されている、このことが世界でも稀有な日本の古墳文化の特徴なのです。

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