日本とは異なる政策を採ったドイツ
例えば、少子高齢化が進む日本では労働力人口の減少が著しいため、外国人労働者を受け入れる制度を拡充しています。そのメッセージはよく報道もされます。
しかし、同時に、外国人技能実習制度や特定技能制度は外国人の定住を認める制度ではないという政府のメッセージも発信されています。つまり移民を受け入れる制度ではなく、日本社会の民族的な同質性は維持されるという建前をとっています。でも、それは、実態と乖離しているのです。
実は、少し前まで、ドイツも、いまの日本と同じような状況にありました。ドイツでは1950年代、60年代の戦後復興期に多くの外国人労働者を受け入れた結果、2000年頃には、ドイツの総人口約8200万人に対して、730万人もの外国人が居住する移民国家となりました。
しかし、そのような現実があるにもかかわらず、ドイツは「単一民族国家」で、「移民の国」ではないとの姿勢を長年にわたり取り続けてきたのです。そのため、外国人差別や排斥運動など、しばしば様々な社会問題や混乱が生じてきました。
それに対してドイツの連邦政府は、2000年代以降、ドイツ社会は移民も多く暮らす国であることを伝えるメッセージを出し、その実態を社会に広く伝えるために、移民に関するデータを公表するようにしました。
そして、それとともに、移民がドイツにスムーズに定住できるように様々な公的支援施策を行い始めました。例えば、全国レベルで、ドイツ語を学ぶ語学講習とドイツの文化や歴史を学ぶ講習からなる統合講習を公的に制度化したのです。
もちろん、そうした施策だけで差別や軋轢の問題がすべて解決できるわけではありません。また、それは多文化共生というよりも、同化政策ではないかという議論もあります。
しかし、例えば、イスラム系の移民が多い地域でモスクを建てる計画が立てられることがありますが、ドイツ社会からしばしば反発が生じます。そこで、自治体、地域住民、イスラム系の移民たちが話し合いを重ね、それぞれが妥協しあったりして、納得できる落としどころを見つけます。
このように、いろいろと課題はあるにせよ、ドイツは多くの移民が暮らしているという、実態に即した公的なメッセージを発し、広くドイツ社会の理解を求めるとともに、移民に対する統合政策を行い、移民がドイツ社会に積極的にかかわることのできる支援を行うことで、共生のための基礎を作り出そうとしているのです。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。