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ゲーテッド・コミュニティの実態に迫り、その“可能性”を探る

菊地 端夫 菊地 端夫 明治大学 経営学部 教授

近年、アメリカなどで増えているゲーテッド・コミュニティは、日本では、富裕層が集まって住む地域をフェンスなどで囲い、社会と隔絶したコミュニティと批判的に捉えられがちです。しかし、むしろ、これからの日本社会に必要なエリア・マネジメントのスタイルのひとつであるというのです。ゲーテッド・コミュニティの本質とは何なのか、そして、そこにはどんな可能性があるのでしょう。

ゲーテッド・コミュニティを欲しているのは富裕層ではなく中間層

「ゲーテッド・コミュニティ」のイメージ
「ゲーテッド・コミュニティ」のイメージ
 ゲーテッド・コミュニティとは、300とか500、場合によっては1000ほどの住宅のある地域を外部からアクセスできないようにフェンスなどで囲み、ゲートで、このコミュニティの居住者および、居住者から許された人しか出入りできないように制限する仕組みのコミュニティを指します。アメリカに多くありますが、中国、フィリピン、あるいは中南米などでも増えています。歴史的にみると、ヨーロッパの都市の成り立ちは城塞都市であったり、日本でも周囲に堀を巡らせた環濠集落がいまでも残っています。このような都市や集落はセキュリティが大きな目的でした。そのため現代のゲーテッド・コミュニティも、要塞的な外観からこうした歴史上の都市を思い起こさせ、そこに排他性や閉鎖性をイメージし、それが批判の的となっています。つまり、現代では、富裕層が社会から離脱するためのコミュニティで、貧富の差の象徴であると。確かに、そのようなゲーテッド・コミュニティはあります。例えば、ハリウッドの近くにあるゲーテッド・コミュニティは、いわゆるセレブたちがパパラッチに遭わずに生活することを目的としたコミュニティでしょう。しかし、自分たちに害をなす者や犯罪者があふれる社会から、自分たちを守るフォートレス(砦)としてつくられたゲーテッド・コミュニティは、実は、ほんのわずかです。では、何のためのゲーテッド・コミュニティなのかというと、共有する空間や施設を自分たちで管理する、というのが大きな目的なのです。

 例えば、富裕層の大邸宅を想像してみましょう。家屋の他にテニスコートやプール、美しく手入れされた庭園もあるかもしれません。一般の人が個人でそれらを所有することは、まず無理です。しかし、300、500、1000の世帯が住む地域で共有すれば、みんなで利用することができます。アメリカには、ゴルフコースを共有するコミュニティもあります。企業が運営するテニスクラブやゴルフクラブがフェンスで囲まれているように、こうしたアメニティ施設を共有するコミュニティが、自分たちの共有空間をフェンスで囲っているのが、ゲーテッド・コミュニティの多くなのです。つまり、ゲーテッド・コミュニティは全てが貧富の差の象徴などではないのです。本当の富裕層はゲーテッド・コミュニティに住む必要はありません。自分の所有地をゲーテッド・ホームにします。ゲーテッド・コミュニティの多くは、いわゆる中間層のために開発されているのです。土地開発の企業にしてみれば、1戸1戸にテニスコートやプールをつくるよりも、それらを地域の共有にして、その分住宅を多く建てれば、プール付きの家には手が届かない多くの人に、プールの利用権のついた住宅を安く、たくさん売ることができます。土地開発の側からすれば、土地の利用効率を非常に高めることができるのが、ゲーテッド・コミュニティなのです。

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