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環境リスクにどう向き合うか ―リスク・デモクラシーの提言―

寺田 良一 寺田 良一 明治大学 名誉教授(元文学部教授)(2023年3月退任)

TPPの「ISDS条項」がはらむ危うさ

 TPPも懸念すべき大きなリスクをはらんでいる。TPPは農業・食料問題などを中心とした議論が活発であるが、とりわけ見過ごすことができないのが「ISDS(投資家対国家の紛争解決)条項」である。「ISDS条項」は、国家による市場参入の規制や国内企業の保護が、自由貿易の障壁になるとみなされた場合、外国企業(投資家)が国際仲裁機関へ訴える権利を付与する条項である。つまり、国内規制が自由貿易の障壁として提訴されそれが通ると、規制を撤廃しなければならなくなる。TPPは、グローバルな多国籍企業が自分たちのやりたい経済活動を遂行できるようにするところに、その本質があるといえるだろう。つまり、国内法で規制していくことができない構造を潜在的に秘めているのがTPPなのである。
 たとえば、懸念されていることに遺伝子組み換え作物の輸入がある。TPPのルールに従えば容認せざるを得ない可能性が高い。遺伝子組み換え作物の中で懸念されるものの一つが、害虫を死滅させる生物農薬・BT菌遺伝子を組み込んだジャガイモやトウモロコシ等だ。害虫以外にも絶滅危惧種の蝶なども殺してしまうことが報告されている。
 またアレルギーなど人体への健康被害も危惧される。あるいは遺伝子組み換えによって除草剤耐性を持つ植物も生まれており、交雑、雑草化によって遺伝子撹乱、遺伝子汚染のおそれが指摘されている。これらが危険なのは、通常の毒物と違って自己増殖して環境を改変していくことである。そうした事態に歯止めをかけるのが、これまで蓄積されてきた国内の環境規制や食品安全基準であるが、「ISDS条項」によって無効化されるおそれがある。TPPへの参加は未来の日本に禍根を残すことになりかねない。

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