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2013.09.01

環境リスクにどう向き合うか ―リスク・デモクラシーの提言―

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リスク・デモクラシーの実現へ

寺田良一教授 私の社会への提言を一言で言い表すと、「リスク・デモクラシー」という言葉になるだろう。20世紀は、福祉国家にせよ社会主義にせよ「富の分配のデモクラシー」が最も大きな争点だった。それに対して、1986年のチェルノブイリ原発事故を機に、ドイツの社会学者ウルリヒ・ベックは「富」ではく「リスクの生産と分配と定義づけ」が争点となる「リスク社会」の到来という問題提起をした。
 従来リスクは、被害・有害性×確率で定義されていた。この確率論的リスクは、リスクとベネフィットやコストの比較など、より「合理的」な選択に適用されてきた。しかしリスクには環境ホルモンなど、まだ科学的に解明されていない、確率論的な掛け算が成立しない不確実性リスクがある。さらに核や遺伝子組み換え作物など、最終的被害が不明で取り返しがつかない破局的・不可逆性リスクというものもある。いわば(被害)無限大×ゼロ(確率極小ないし不明)のリスクだ。こうしたリスクに、一般市民・生活者の立場に立ってどのように向き合い対応していくかが、大きな研究テーマの一つである。
 誰がリスクを排出(利益享受)して、誰がそれを被っているのか、環境的公正の観点を踏まえた「リスク・ディスクロージャー」や、何がどのような意味でリスクなのかに関する「リスク・リテラシー」の普及拡大を進める必要がある。知識・情報を対等に持った、有効で内実のあるコミュニケーションの実践が「リスク・デモクラシー」の実現には不可欠と考えている。

※掲載内容は2013年9月時点の情報です。

>>英語版はこちら(English)

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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