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ゲームのスキルは、その子の「資本」になる

ヨーク・ジェームズ ヨーク・ジェームズ 明治大学 政治経済学部 専任講師

生徒のゲーミング・キャピタルを活かす

 では、実際に「ゲーミング・キャピタル」をどう活かすのか。

 例えば、私は、日本で英語学習の教員をやっています。その立場からいうと、日本の学生は、英語の文法などの知識は高いと思いますが、それを活かして発信する、会話することが苦手に感じられます。

 すると、文法にはない、ジョークや、その場の状況に応じた言い回しや、端的に表す言葉が身につかず、ますます会話ができないという悪循環になります。

 要は、言語学習とは、文法や単語を覚えるだけでなく、その言語の文化を知ることでもあります。それは、その文化圏で暮らしたり、ネイティブと会話を重ねることなどによって身についていくものです。でも、日本の学生は、その部分が苦手な者が多いのです。

 ところが、「ゲーミング・キャピタル」のある学生は、そのゲームの世界的なコミュニティに参加するきっかけが得られるのです。例えば、最初は写真などの投稿だけだったものが、短いセンテンスのやり取りになり、さらに、積極的な発信、会話に繋がっていくことも多いのです。

 日本発のゲームの世界的コミュニティなどでは、一目置かれる存在になることもあります。すると、この学生の英語のスキルは格段に向上します。

 私は、彼らがコミュニティに参加するように、アドバイスをしたり、参加しやすい環境を整えてあげるなどの工夫をするのです。

 また、ゲームとはビデオゲームばかりではありません。「遊び」から派生したゲームは多様にあります。面白いのは、世界各国に似たような遊びがあり、しかし、それは、それぞれの文化圏によって特徴があるのです。

 ジャンケンが世界各国で少しずつ異なることを聞いたことがある人は多いと思いますが、「だるまさんが転んだ」なども英語圏に似た遊びがあり、日本とは少し異なります。

 授業で、英語圏の「だるまさんが転んだ」をプレイすることは、その文化に対する理解を深めるきっかけのひとつになると思います。

 また、私は、優れたコミュニケーションゲームである「人狼ゲーム」を授業に取り入れることもあります。これを英語で行い、そのやり取りを録音し、ゲーム後、それぞれの学生はそれを聞いて書き起こし、自ら添削し、より良い表現を考え、次の授業でそれを活かす、というやり方です。

 これは、学生にとっては大変な作業だと思いますが、ゲームを媒介にすることで学生たちはモチベーションを下げることなく繰り返し、6週間くらいでスムーズな英語でプレイすることができるようになってきます。

 要は、今日では、多くの学生がゲームに関心、興味をもち、自らスキルを養っているのですから、そのスキルを学習に利用しないのはもったいないということです。

 逆に言えば、学生の興味がゲームでなければ、ゲームを使う必要はないのです。実際、寿司が大好きな学生は、海外の寿司コミュニティに参加し、写真を送って大喜びされ、それが英語学習のモチベーションになりました。

 学生たちのこうしたキャピタルを、私は英語学習で活かしていますが、例えば、数学でも、工学でも、デザインやアートの分野でも、文学の分野でも、様々な分野で、それぞれの活かし方があると思います。

 しかし、先に述べたように、ゲームの教育利用にはハードルがあるので、教員は工夫を考えなくてはなりません。

 そのためには、子どもたちばかりにゲーム・リテラシーを求めるのではなく、教員自らがゲーム・リテラシーを身につけることが必要です。それは、自らゲームをやってみることでしか得られないと思います。そして、ゲームを活用した授業法についての研修も必要だと思います。

 少なくとも、子どもたちがやっているゲームに無関心、無理解で、子どもたちがなにをやっているのかわからない、という親や教員では、その子のキャピタルに気づけず、それを活かしてあげることもできないのではないでしょうか。

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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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