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「道徳科」導入の現在、その是非を超えて

明治大学 文学部 准教授 関根 宏朗

道徳教育は、現場の各先生の力に大きく依存する

一方で、懸念もあります。なにより道徳科教育を有効に行っていくにあたっては、現場の各教員の力量に依存するところが大きいと考えられることです。道徳の教科化に際しては、とくに3つの要件が打ち出されました。1点目が検定教科書の採用ですが、これについてはまた後で述べたいと思います。2点目が評価の導入です。通常、教科の成績評価は通知表に客観的な数値評価として示されますが、道徳科においてはその限りではなく、文章で記載されることとなりました。それも継続的なまとまりをもった前向きな評価が望ましいとされ、文部科学省からいろいろなかたちで評価のポイントが示されてはいますけれども、しかしいささか抽象的で要領を得ない部分があると言わざるをえません。道徳の評価をいかに進めるべきか、あるいはそもそも道徳の評価などできるのか、現場の先生方のうちに困惑が生じることも考えられます。加えてもう一つ、強調される3点目は「道徳」の専門免許は設けないということです。現状では、基本的に担任の教員が週に1コマ道徳の授業を受け持つことになります。小中学校の教員を目指す学生には道徳教育関連の授業は必修になっておりますが、すでに現場にいる多くの教員にとってもまた教員研修や免許更新講習等の機会を通してあらためて深く確認を加えていくということになろうかと思います。もとより学校における道徳教育はホームルームや学校行事、部活動など、日常の教育活動全体を通じて教えられるべきものとして位置付けられております。それらを統合して教科として教えゆくうえでは、さまざまに試行錯誤を重ねるその姿勢も含めてダイレクトに教員の力量が問われることとなるでしょう。

ここで先に述べた1点目の検定教科書の採用について、すこしふれておきたいと思います。もともと「従来の意味での「教科」としては取り扱わないこと」との但し書きのもとに戦後はじめて「「道徳」の時間」が義務教育のうちに必修化されたのは1958年のことでした。当初は導入への批判も根強く、その実施率も十分ではありませんでした。そうしたなか1965年に当時の文部省は「道徳の読み物資料について」というガイドラインたる文書を出し、それ以後、心情理解の素材としての読み物副教材の重要性が提示・強調されてきました。とはいえ学校で便宜的に「道徳の教科書」と従来呼ばれてきた教材群は実のところあくまでも副読本に過ぎず、言うならば各学校の裁量でその他さまざまな教材を使うこともできたのです。ところが今回の教科化により、まずは検定教科書を使用するウェイトが非常に大きくなりました。そのなかで、教科書や指導書をふまえつつシンプルに『学習指導要領』の項目内容を伝達教授するのか、あるいはそれらをあくまで問題提起のための素材として留めながら児童・生徒たちに自ら考えさせるような授業をねらうのか、その進行は現場の先生方の姿勢に大きく依ることにもなります。たとえば先だって放送されたNHKの「クローズアップ現代+」(2018年4月23日放映)でも象徴的な教材として注目されていた、複数の道徳科検定教科書に採録されている「星野くんの二塁打」(吉田甲子太郎作、初出1947年)という有名な話があります。野球の試合で星野くんは、監督からのバントの指示を守らず二塁打を打ち、結果として試合には勝ちましたが、しかし試合後に監督の指示に従うというルールを破ったことを諌められます。この話ではルールを守ることや和を乱さないこと、さらには注意を受けて深く反省することの大切さが示唆されていますが、ともすると指導者の強権的な指示が学生を追い込んでしまったある総合大学のアメリカンフットボール部の不幸な事件を想起させもするような内容です。こうした物語のメッセージをそのまま「道徳」的に大切なものとして児童・生徒に伝えるのか、星野くんの行動や監督の言うことをテーマにその是非を含めて生徒たちみんなで考えさせるのか、その見通しによって授業の運びはまったく違うものになるわけです。ちなみにこの物語の作者、吉田甲子太郎は、明治大学の文芸科で教鞭を執った英文学者で、ヒューマニストとして名高い山本有三や吉野源三郎らとともに『日本少国民文庫』の創設にもかかわったリベラルな児童文学者でもありました。吉田本人の意図はあくまで作品の「吟味」を通して「民主主義的な態度」について考えることにあったと指摘する研究もあります。いずれにしても、教科書教材に記載された内容の解釈が「道徳的諸価値についての理解を基に、自己を見つめ、物事を広い視野から多面的、多角的に考える」という道徳科教育の当初の「目標」にどれほど沿っているものなのか、教員たちはその都度批判的かつ理性的に考えていく必要があるでしょう。

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