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「道徳科」導入の現在、その是非を超えて

明治大学 文学部 准教授 関根 宏朗

「道徳科」が愛国心教育と結びつく?

関根 宏朗 さらに合わせて付言すると、政府の示す指針それ自体の硬化可能性についてもまた同様に点検を加えていくべき余地があるのかもしれません。しばしば指摘されるとおり、「道徳」が教科化された直接的な背景には、やはりいじめ問題に対する政策側の強い危機意識があったことは事実です。とくに2011年に滋賀県大津市で起きた事件はメディアでの盛んな報道も相俟って社会に大きな衝撃を与えました。安倍内閣は2013年2月、内閣官房内に教育再生実行会議を立ち上げますが、そこでの第一回のテーマとして掲げられたのもまさに「いじめ問題等への対応」についてでした。同会議での道徳教科化の必要性に対する言及を直接受けるかたちで、同年のうちに文科省のもとでも都合10回学識経験者会議が開かれます。中央教育審議会は翌2014年に「道徳」の教科化を正式に打ち出しますが、この結論は決して急拵えのものではなく、内閣発の見通しのなかで世論とともに少しずつ固められていったものでした。しかしそうしたいじめ問題への対応という直接的なきっかけを下支えするコンテクストとして、現政権の文教政策における保守的な道徳観へのノスタルジックな憧憬をみとめることも十分に可能でしょう。たとえば「愛国心」条項の挿入が広く議論を呼んだ教育基本法改正(2006年)が、他ならぬ第一次安倍晋三内閣によってなされたという事実は一つ象徴的です。安倍政権下で文部科学大臣を務めた文教族議員のなかには、下村博文や馳浩など、保守的なトーンがきわめて強い日教組問題究明議連に名を連ねている議員たちを数えることもできます。

実際、教科化を経た現行の『学習指導要領』においても「我が国の伝統と文化の尊重、国を愛する態度」についての学習はなお変わらずに一つの項目を成しています。しかしグローバル化が急速に進みゆく今、現実問題として教室にはいろいろなルーツをもった子どもたちが当然想定されますし、そうしたなかにはもちろん日本国籍をもたない子どももいるかもしれません。たとえばそのような場において教員は、いかに『学習指導要領』の内容項目を消化し、また子どもたちに「多面的、多角的」な視角を涵養しうるのか、非常に難しい問題です。最高裁の判例にもある通り、『学習指導要領』は法的拘束力をもっています。現場の教員には指導計画上すくなくとも1回はここに挙げられた内容にふれなくてはならないという縛りがあるのです。しかし、だからこそ、先に述べた検定教科書や評価の扱いも含めて、現場の各教員の力量ならびにその姿勢のバランスに依存するところが大きいと言えます。

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