
2023.03.23
明治大学の教授陣が社会のあらゆるテーマと向き合う、大学独自の情報発信サイト
「モノからコトヘ」と言われて久しい。一見、これは第三次産業(サービス業)へのシフトを謳ったように思えるが、実は日本経済全体への警鐘を鳴らした言葉である。経済活動はすべてサービスであり、「モノを伴うサービス」と「モノを伴わないサービス」があるとする発想の転換は、行き詰った日本の多くの中小企業にも、新たなヒントを提起している。
――先生が研究対象とされている「サービス研究」「サービスマーケティング」とは、どのようなものなのでしょうか。まず、その解説からお願いします。
「サービス研究」「サービスマーケティング」といった分野の研究は日が浅く、50年ほどの歴史しか経っていませんが、近年、大きく注目されるようになってきたのは、経済や産業の構造が変化してきたことと密接な関わりがあります。経済は成熟化するほどサービス化が要請されます。日本、欧米の先進国はその好例で、日本のGDPの約70%は第三次産業、すなわちサービス産業が稼ぎ出しています。しかしサービス化というのは、単に産業が第三次産業にシフトすることを指すわけではありません。重要なのは、経済活動そのもののサービス化を進展させることです。
かつてサービス研究は、モノとサービスを二極化対比することで、サービス化の重要性を強調していました。しかし10年ほど前にパラダイムシフトが起こり、そこで登場したのが「サービス・ドミナント・ロジック」という理論です。モノとサービスを分けて経済活動をとらえようとしてきた従来の基本的な前提を見直し、モノとサービスを統合・融合して経営理論を組み直そうという考えです。マーケティングの世界で古くから使われている格言に、「ドリルを買いに来た人が欲しいのはドリルではなく穴である」という言葉があります。モノづくりの国として経済成長を遂げてきた日本は、ドリルの性能向上に注力しすぎたと言えます。モノの性能追求だけでは事業が成り立たない危機的状況にあることは、ここへきて露呈したモノづくり企業の苦境が物語っています。求められているのは、モノとサービスを融合させる「サービス・ドミナント・ロジック」を導入することであり、「ドリルではなく穴」を提供する経済のサービス化を推進することです。