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企業の非財務情報に注目すると社会が変わる!?

弥永 真生 弥永 真生 明治大学 専門職大学院 会計専門職研究科 教授

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近年、企業の情報開示は企業の果たすべき責任と見なされるようになってきています。特に、ヨーロッパではその動きが進んでいます。その理由にはなにがあるのでしょう。また、企業の情報開示が遅れていると言われる日本は、今後、どうなっていくのでしょう。

EUで進む非財務情報の開示

大城 直樹 上場企業が財務情報を開示するのは当然のことと思われています。その企業が、どれくらい利益を上げているのか、資産を持っているのかなどの情報が、投資の判断に関わるからです。

 しかし、近年は、そうした財務情報だけでなく、非財務情報も重視されるようになってきています。

 それは、財務情報がその企業の過去から現在の実績を示す数値であるのに対して、非財務情報にはその企業の経営戦略が示されており、いわば、企業の将来を判断する材料となるからです。

 その背景には、企業を取りまく環境が、かつてないほどの短期間で変化するようになってきていること。中期的・長期的には大きく変化すると予想されていることがあります。

 そのため、例えば、その企業は、直面する様々な問題をどのようなリスクと考えているのか、あるいはチャンスと捉えているのか。そして、どのように対応しようとしているのか。それを真摯に記述した情報が、まさに、その企業の成長戦略、場合によっては生き残り戦略として判断されることになるわけです。

 そうした非財務情報の中で、近年、特に注目されているのが、ESGと言われる、環境、社会、企業統治に関わる情報です。すなわち、企業の持続可能性、サスティナブルな成長という観点から、ESGは非常に重要と見なされるようになってきたのです。

 このような認識が最も進んでいるのがEUで、ESGに関わる問題を企業がどう捉え、どう対応しようとしているのかを情報開示することが、指令(EU法)によって企業に求められる動きが加速しています。

 たとえば、Eの環境については、とりわけ、気候変動関連情報が重視されるようになっています。それは、まず、企業活動が気候変動の要因のひとつになっており、企業の果たす責任が大きいと考えられているからです。

 同時に、気候変動対策として、今後、各国政府が企業に対して様々な規制を設けることが考えられます。そのような規制というリスク、見方によると機会に対して、企業はどういう対応を考えているのか、または、講じているのか、その情報を開示せよ、ということです。

 また、Sの社会に関しては、ヨーロッパでは、特に人権に対する意識が高く、近年、それらに関わる情報開示が強調されています。

 たとえば、児童労働などに関して強い問題意識を持っており、企業内でそれらを避けることはもちろん、児童労働などを利用している海外企業を含む他企業と取引することも非難されます。つまり、サプライチェーンまたはバリューチェーンにおける人権の尊重にも目配りをすることが求められます。

 こうした意識が強いのは、企業と社会との関わり、ステークホルダーとの関わりのなかで企業のサスティナブルな成長はあり、また、それによって社会や様々なステークホルダーの持続可能性もある、という捉え方があるからだと思います。

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