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企業会計を変えれば、日本に新たな社会インフラが構築される

山口 不二夫 山口 不二夫 明治大学 専門職大学院 グローバル・ビジネス研究科 教授

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新型コロナウイルスによるパンデミックは、日本社会の様々な歪みを露呈させました。それを正していくのは政治ですが、そこに重要な資料を提供する分野のひとつが会計学です。企業の収支をどう捉え、どう計算するか、という考え方は、公正な社会を構築するためのインフラになると言います。

富の公正な分配を考える基になる会計学

山口 不二夫 2020年、新型コロナウイルスによって引き起こされたパンデミックによって、日本でも、様々な問題が噴出しました。そのひとつが、仕事が立ちゆかなくなり、収入が得られなくなった人たちがたくさん出たことです。

 例えば、飲食や観光に関わる仕事は大打撃を受けています。そうした仕事にたずさわる人たちは、本当に様々な知恵を絞り、工夫し、努力して、この苦境を乗り越えようとしています。それは大変な苦労ですし、なぜ自分たちがこんな苦労を強いられるのか、という思いもあると思います。

 確かに、このパンデミックは、そうした業界の人たちに責任があるわけではなく、むしろ、降って湧いた災難です。

 一方で、非接触のサービスや商品を扱う業界は、特需のような状況になっています。

 つまり、このパンデミック下で、それまでの努力などにはまったく関係なく、利益を失う人、利益を得る人が生まれているわけです。それは、運としか言いようがありません。

 実は、いままで常識だと思っていたことが覆るような、予想もできない大変動のことを、ヨーロッパではブラック・スワンと言います。黒い白鳥などいないと思っていたのに、現れたということです。

 でも、東日本大震災、リーマンショック、9.11同時多発テロ、ベルリンの壁の崩壊など、ここ数十年の歴史を振り返っても、ブラック・スワンは度々起こっていることがわかります。

 こうした大変動が起きたとき、運が悪い人、運が良い人が生じることが多々あります。そのとき、運が悪い人たちを支援してあげられることが、社会の重要な仕組みのひとつです。実際、いま、日本でも、給付金などを行い、困窮した人たちを支援しようとしています。

 でも、その給付金が不公正であるという指摘があります。人によって得られなくなった収益は異なるのに、給付金は一律だからです。つまり、社会の富の再分配が公正にできていないということです。

 再分配自体は政治の問題です。より公正にできるように、みんなで考えなくてはなりません。そのとき、考えるための資料を提供することができるのが、私の専門である会計学です。

 例えば、いま必要な資料のひとつが、付加価値計算書であると考えています。

 付加価値とは、簡単に言えば、商品の売値から仕入れ値を引いたものです。例えば、様々な部品を総額100で仕入れ、それを組み立てて商品にして300で売れば、差額の200が付加価値ということになります。つまり、その企業は、様々な部品100に200の付加価値を付けたということです。

 その付加価値を付けるためには、生産設備や労働力が必要です。そこで、企業は設備投資を行ったり、従業員には賃金という形で配分を行います。そして、付加価値の残った部分で、納税や株主への配当、あるいは、内部留保などをするわけです。

 実は、大企業などであれば、おそらく、すでに、こうした付加価値計算を行っているところは多いと思います。しかし、それが財務諸表として公表されることはほとんどありません。それは、ブラック・ボックス化されています。

 そのため、例えば、このパンデミックで運良く特需のようになっている企業は、急に忙しくなった従業員に、その付加価値にあう配分を行っているのか、私たちはそれを知ることができないのです。

 さらに、付加価値計算書の公表は、大企業が社会に大きな影響力を及ぼす現代では、その企業活動を可視化するという意味でも、非常に有効になるのです。

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