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最近、日本でも企業のM&A(合併&買収)が増えてきています。一般にはあまり良いイメージのないM&Aですが、それは、M&Aについて正しい理解が及んでいない面があるからだと思われます。

日本人はM&Aアレルギー

岡 俊子 欧米企業においては、M&Aは、経営戦略を実現するための手段として一般的になっていますが、日本においては、欧米ほど活発に活用されてはいません。日本人に、M&Aに対してアレルギーがあるからです。

 その理由はいくつかあります。ひとつには、2000年代前半に、投資ファンドを舞台とした小説がドラマ化され、ヒットしたことがあります。

 その小説・ドラマにおいて、投資ファンドは、短期の利益獲得を目的としたM&Aを行い、会社を潰したり乗っ取ったりする八面六臂の活躍を見せていました。これにより、M&A=「ハゲタカ」というイメージが、世の中にすっかり定着してしまいました。

 実は、日本でも、戦前にも多くのM&Aが行われていたのですが、それらのM&Aは、経営者の意向というよりも、メインバンクの意向で行われるものが多くありました。

 戦前の日本は、メインバンク制でしたから、経営者はメインバンクに頭が上がらず、銀行主導による再編に逆らえませんでした。こういった歴史も、「M&Aは強圧的で弱い者いじめである」というイメージがついた背景にあるのかもしれません。

 ここ数年、M&Aがマスコミに取り上げられることが増えていますが、マスコミに取り上げられるM&Aのほとんどは、敵対的M&Aです。

 上場企業を買収する場合、買収者は、買収することを公に宣言して、TOB(株式公開買付)をかけます。TOBをかけられた会社の経営陣は、そのTOBに対して賛成であるか、反対であるかを公表しなければいけません。その際、経営陣が反対であると表明するTOBのことを敵対的TOBと呼びます。これが、いわゆる敵対的M&Aです。

 敵対的M&Aでは、経営陣がTOBに対抗するのですから、様々な攻撃と防御が繰り広げられ、大騒動が起きることは日常茶飯事です。そうなると、マスコミはドラマタッチに報道し、世間も大きな関心を寄せる劇場型の大騒動となってしまいます。

 このように華々しく報道される敵対的M&Aですが、実は年間に数件しか起きておらず、日本のM&A全体の件数の1%にも満たないのです。

 実は日本で行われているM&Aの99%は友好的なM&Aで、これらの友好的なM&Aは、センセーショナルに報道されることもなく、静かにプロセスが進行していきます。

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