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M&Aは経営戦略において重要な選択肢のひとつ

 このように従来は悪いイメージがあったM&Aですが、日本においても、最近は、徐々にですが、会社経営上、ひとつの有力な選択肢であると認識されるようになってきています。そのことについて、具体的なケースを用いて説明してみたいと思います。

 蕎麦屋のケースで説明します。蕎麦屋は、お客さんに蕎麦を提供してお客さんからお代をもらっています。美味しい蕎麦を提供することで、豊かな食生活という価値を社会に提供していますが、蕎麦屋の主人が高齢になり仕事が続けられなくなったら、その蕎麦屋はどうなるのでしょうか?

 もしも、蕎麦屋の主人が蕎麦屋を残したいのであれば、だれかにその事業を引き継いでもらわなければなりません。その時、その主人に蕎麦屋を継いでくれる子どもも知り合いもいなかったとしたら、どうでしょう。

 実は、このような後継者問題を解決するために、M&Aが使われているのです。会社を売りたい人と買いたい人を引き合わせるのが、M&Aの仲介会社です。その仲介会社が、その蕎麦屋を買いたいという人を見つけてきてくれるのです。

 蕎麦屋の事業を売買する売却額や条件は、売り手と買い手との間での交渉により決められます。もしも、この交渉がまとまらなければ、そのM&Aは成立せず、売り手は、仲介会社にまた別の買い手を探してもらうことになります。そのため、非上場企業のM&Aでは、敵対的買収はまずは起こりえないのです。

 昨今、後継者がいない中小中堅会社の数は非常に多く、黒字であるにもかかわらず廃業を余儀なくされるケースが社会問題になっています。

 オーナーによっては、自分が興した会社なのだから、自分で会社をたたんで何が悪いのかと考える人もいますが、会社をたたむと、取引先をはじめ、様々な方面にネガティブな影響を与えますし、これまで行ってきた社会貢献もできなくなります。

 M&Aは、こういった後継者問題を解決するひとつの有力な選択肢なのです。前述したM&Aアレルギーは地方に行くほど強く残っていますが、M&Aを後継者問題を解決する有力なツールとしてポジティブに捉えていくことは、大変重要だと思います。

 上場している大企業にとっても、M&Aは、その企業戦略を実現させるために、きわめて有力な選択肢のひとつです。

 近年、ビジネス環境の変化が大きく、その変化のスピードも速くなっています。20年前には隆々としていた事業が、いまや衰退事業という例は枚挙にいとまがありません。そうした変化に対応するためにもM&Aは使われています。

 ここ数十年、大企業は、事業の多角化を進めてきました。そういった多角化経営の会社には、会社というひとつの器の中に、いくつもの事業が存在しますが、事業には寿命がありますので、ある事業の寿命が尽きる前に、別の新しい事業を育てておくことが必要なのです。そうすることによって、企業という器を保ち続けることができます。

 以前でしたら、会社は、将来の環境の変化を予見して、会社の器の中で新規事業を育てていましたが、昨今、大企業は、社内で次世代を拓くようなイノベーションを起こしにくくなっています。

 そこで、有望なベンチャー企業をM&Aという手法を使って、グループ内に取り込むことが、大企業にとってひとつ有力な選択肢になってきているのです。ベンチャー企業にとっても、大企業の傘下に入ると、多額にのぼる研究開発費を調達する心配が減ることになります。

 グローバル化が進む今日では、国内のM&Aばかりでなく、海外の会社をM&Aすることで、より早く効率的にその国や地域に進出することが可能になります。

 このように、M&Aをポジティブに活用することで、企業は、経営戦略の実現を促進することができるのです。

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