
2023.03.23
明治大学の教授陣が社会のあらゆるテーマと向き合う、大学独自の情報発信サイト
もちろん、M&Aをすればすべてが上手くいくというわけではありません。M&Aを成功させるには、やはり、いくつかの課題があります。
例えば、ベンチャー企業などを傘下に収める場合、これを上手く進めるには相当の工夫が必要です。
ベンチャー企業の若いスタッフたちは、自由で先進的な発想の下で仕事を行っていますが、その仕事のやり方や気持ちを買収した側の大企業が理解できず、大企業の論理や仕事のやり方を押しつけた結果、それを嫌ったベンチャー企業のスタッフたちが辞めていったという話を耳にすることは少なくありません。そうなると、買収側は、お金を出してベンチャー企業を傘下に収めたものの、スタッフの流出により、所期の成果を得られないということになってしまいます。
そこで、契約書の中に、そのベンチャー企業の創業者など、キーパーソンとなる人が一定期間職務を継続することを明記するキーマン・クローズ条項を盛り込むなどの対応がなされますが、キーパーソンのモチベーションが下がるような状況になっては、こうした条項も意味がありません。
統合によって企業価値を向上させるためには、買収企業と被買収企業との間でシナジー(相乗)効果を実現することが不可欠なのですが、緊密なコミュニケーションの下、相互に工夫を積み重ねていくことが重要です。
このことは、海外の会社をM&Aするときも同じです。日本のやり方に合わせる部分、現地のやり方でやる部分のバランスを見極め、実行することがM&Aの真の成功に繋がります。
また、事業承継のためのM&Aにおける課題としては、仲介会社の位置づけもあげられます。
買収する側はできるだけ安く買いたいし、売却する側はできるだけ高く売りたいものです。そうなると、間に入る仲介会社は利益相反する立場になります。そういった利益相反の状況が生じていては、責任ある仲介を行うことが困難ではないかという点が指摘されています。
確かに、欧米などでは、買収側、売却側それぞれにアドバイザーがつき、アドバイザー同士がそれぞれの雇い主の利益を守るために交渉します。
日本もこのような欧米流のスタイルにすれば良いのではないかという考えもあって、大企業などはこのようなアドバイザーの導入がされるケースも見られますが、中小中堅企業のM&Aでは、未だそこまでには至っていません。
日本では、不動産や転職などでも、仲介会社が間を取り持ちます。お互いを知る仲介会社の方がマッチングが上手くいくというメリットがあるからです。
そのようなスタイルに慣れた日本では、マッチングは仲介会社が行い、価格はバリュエーション(企業価格評価)の専門会社に任せるという仕組みも一つの解決策としてありうる選択肢なのかもしれません。
安心して依頼できるシステムが整えば、事業承継のためのM&Aもより活用しやすくなり、活発になるものと思われます。
今後、M&Aを積極的に活用してもらうためには、まずは、経営者が従来のM&Aマイナスのイメージを払拭して、会社を成長させるための有力な選択肢としてM&Aをとらえ、活用してみようかと思う意識改革が必要であり、また、M&Aを行う際のシステム整備、環境整備が大切です。
日本企業は、失われた30年を早く取り戻さなければいけません。そのためにも、時間を買うことができるM&Aに果敢に取り組んでいただければと思います。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。