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2022.02.02

企業の非財務情報に注目すると社会が変わる!?

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ESG情報に対して市民も意識を高めたい

 EUでは、非財務情報の開示にともなって、その信頼性をチェックする制度も整えられつつあります。

 財務情報であれば、会計事務所や監査事務所などがその内容をチェックしてきました。他方、環境問題や人権問題を含む非財務情報をチェックできる専門家は、ヨーロッパでもいませんでした。

 しかし、非財務情報は、単に、環境や人権に関わる情報ではなく、企業の将来性の指標となり、財務情報に関わる見積もり情報の裏づけにもなっていることから、ビッグ4と呼ばれる国際的な大手監査事務所などでは、非財務情報をチェックするための専門家の採用や育成を積極的に行っているようです。

 実際、フランス、スペイン、イタリアなどは、非財務情報の信頼性を確保するために外部の専門家によるチェックを、すでに、一定の範囲で要求しています。今後は、それをEU全体に広げていこうという動きもあります。それを実現するためにも、人材の育成は急務と言えます。

 たしかに、非財務情報として、重要なことを意図的に記載しなかったり、虚偽の記載をしたことに対しては、行政処分や罰金、損害賠償という事後のサンクションはあります。実は、日本でも、非財務情報が株価にどれほど影響を与えるのかは難しい問題ですが、非財務情報の開示が不十分であったり、不正確であったことにより損害を受けたという訴訟が起こされています。

 しかし、本来は、不十分または事実に反する非財務情報が世の中に出ることを予防するために、財務情報と同様に、専門家による事前のチェックが行われることの方が望ましいと言えます。

 近年、ESG投資なども広がっています。日本の企業も、ステークホルダーや社会に対して情報を提供するという観点からのみならず、自らの経営に役立てるという観点から、あらためて非財務情報の重要性を認識する必要があると思います。

 他方で、私たち市民も、企業の開示する非財務情報に関心を高めていくことも必要です。

 実は、ヨーロッパの企業がESGを重視する理由のひとつは、市民や市民団体が企業の開示する情報に対して関心が高いことがあります。

 ドイツでは緑の党という政党があり、環境問題に取り組んでいます。オランダでは児童労働に対する問題意識が高く、そのようなことをしている海外企業と取引をすると市民から抗議の声が上がります。

 イギリスにも現代奴隷法という法律があります。フランス、スイスなどでも、環境や人権に関わる問題がある企業に対して、市民が行政に動くように促したりもします。つまり、市民や市民団体が、いわば、企業を監視する機能を持っているのです。

 市民たちのこうした活動に対して、企業も速やかに対応することも多いようです。それは、顧客を失うということだけでなく、市民たちの指摘が企業にとってのサスティナブルな成長に繋がるという意識があるからだと思います。企業がESG投資を意識するのも同じ理由です。

 ヨーロッパでも活動する日本の企業の中には、現地ではESGに関わる非財務情報を開示していても、日本国内で日本語による同レベルの開示はしていない企業もあります。

 しかし、情報開示がその国の規則だからそれに従っている、というだけではなく、なぜ、そのようなルールが設けられているのかも考えていただければと思っています。そうでなければ、日本でも同じような規則ができたとき、ただ形ばかりの情報開示になってしまいかねません。

 企業の非財務情報の開示が形骸化しないように、私たち市民も、企業が開示する情報に含まれるメッセージに着目していきたいものです。

 それは、企業の不正や怠慢を糺すというミクロレベルにとどまるものではなく、私たちが暮らす社会の持続可能性を確保するというマクロ的な目標の実現にも繋がっていくことだからです。


英語版はこちら

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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