2024.03.21
- 2021年3月16日
- リレーコラム
#3 日本では取り調べに弁護士を呼べない?
黒澤 睦 明治大学 法学部 教授取り調べに第三者が立ち会うことは禁止されていないが…
いわゆるカルロス・ゴーン事件は、ゴーン氏が海外逃亡したことに関心が集まりがちですが、日本の刑事司法制度について様々なことが考えられる事件です。
そもそも、ゴーン氏が被疑者となったきっかけは、日本版司法取引です。
これは、2016年に導入され2018年から運用が開始された捜査公判協力型協議合意制度で、刑事事件の被疑者などが、共犯者など他人の犯罪について供述するなどの見返りとして、検察官から不起訴や軽い刑の求刑などの減免措置を受けられる制度です。これにより、組織犯罪などの主犯格を摘発しやすくすることなどが想定されたのです。
一方で、組織が自分たちを防衛するために、いわばトカゲの尻尾切りに利用するなどの懸念もあります。さらに、主犯格の人物が、犯罪行為を自白する中で、別の人物に主犯格をなすりつけることも起こりえます。
自分が関わった犯罪なので全体的に真実を述べることができるため、主犯格の部分だけが虚偽であると、それを見抜くのはとても難しくなります。そのため、えん罪になる可能性もあるわけです。
しかし、裁判では、事前に司法取引による証言であることが示され、より慎重な対応が行われることになります。それが虚偽の証言であることがわかれば偽証罪となりえます。また、虚偽の内容によっては、減免措置の合意も、検察官側の合意からの離脱によって無効になることもあります。
すなわち、虚偽の供述をさせない、虚偽の供述をしたら見抜くことが、日本版司法取引においては重要な課題になるのです。
また、カルロス・ゴーン事件では、日本の捜査は自白偏重であると、特に海外から批判されました。
確かに、日本にはその傾向があります。しかし、問題なのは、この自白が、本人が任意に喋ったことかどうか、ということです。つまり、取り調べの段階で、拷問や強迫、強要などがあった場合は、その自白は証拠として認められなくなるのは、多くの諸外国や日本でも同じです。
そのため、日本では、録音、録画による取り調べの可視化が進められ、現在では、裁判員裁判の対象となる事件などの重大事件と検察官が独自に捜査を行う事件において逮捕・勾留されている被疑者の取り調べ等では、録音、録画が義務化されています。
警察には裁判員裁判の対象となる事件などの重大事件以外では法による義務化はありませんが、自白や第三者による目撃・被害供述などをきちんとした証拠にするために、取り調べの録音、録画を積極的に拡大運用しています。このような拡大運用は検察でも行われています。
一方、海外では、捜査機関の取り調べ時に弁護人が立ち会うことが、逮捕・勾留などの身体拘束中の被疑者の権利として法制化されている国もあります。日本でも、そうした制度を導入することを、弁護士会などは主張しています。
実は、日本の現行法でも、取り調べ時に第三者が立ち会うことを禁止してはいません。むしろ、逮捕・勾留中の被疑者等には弁護人の援助を受ける権利が憲法に明記されています。その援助は逮捕・勾留中の取り調べ時にも適用されると、弁護士会は言っているのです。しかし、警察等の捜査機関側は取り調べがやりにくくなることなどを理由に反対しています。
今後は、こうした議論も深まっていくと思います。私たちも、自分事として、こうした動きや議論に関心をもつことが大切です。
次回は、えん罪事件について解説します。
#1 日本の刑事司法制度は変わってきている?
#2 スマホが犯罪捜査に活用される?
#3 日本では取り調べに弁護士を呼べない?
#4 えん罪ってなぜ起こるの?
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。