2024.03.14
- 2021年3月12日
- リレーコラム
#1 日本の刑事司法制度は変わってきている?
黒澤 睦 明治大学 法学部 教授犯罪被害者をより保護し支援する方向へ変わる法制度
近年、日本の刑事司法制度が多岐にわたって改正されています。その目的は、もちろん、犯罪を減少させることですが、さらに、犯罪被害者の保護・支援や、えん罪を防ぐことも意図されています。
私たち一般市民にとって刑事司法は縁遠いことと思いがちですが、実は、いつ、被害者になったり、あるいは、犯罪者となったり、そうでなくても、犯罪者と疑われて捜査の対象となるかわかりません。さらに、裁判員制度もあります。刑事司法制度がどういった方向に向かっているかについて、関心をもつことは大切だと思います。
例えば、犯罪被害者を保護・支援する法制度は大きく変わりました。2000年の被害者保護関連二法により、刑事裁判に出廷し、自らの被害状態や、思い、感情を述べ、量刑に活かすことも可能になったのです。
さらに、2008年の被害者参加制度により、一定の犯罪の場合には、検察官の隣に入り、被告人や証人に尋問することもできるようになっています。
一方、法の平等性や公平性という観点から、被害者の感情などによって量刑が左右されるべきではないという意見もありますが、裁判員になった一般の人はもちろん、職業裁判官にとっても、被害者に対する理解がより深まるという意味では、こうした方向の法改正は今後も進んでいく可能性があります。
また、現在、議論されているものとして「修復的司法」があります。これは、被害者を支援し、その被害を回復しつつ、さらに、加害者に対しても、加害行為や犯罪に至った原因を除去し、社会に再統合するという回復を図ることを意図した取り組みです。
例えば、犯罪が職場や家庭内など狭いコミュニティで起こることも多々あります。すると、その職場の状況や、親族の関係は混乱します。そうしたコミュニティ内の不調和や混乱を回復していくことは、被害者、加害者、その周囲の人たちなど、あらゆる関係者にとって、とても重要なことです。
ここで注意しなければいけないのは、ここで言う修復とは、被害者と加害者を単に仲直りさせる、という意味ではないことです。例えば、性犯罪の場合などは、加害者が被害者に接近しないようにすることも、修復のひとつの形です。
つまり、そこに関わるすべての人にとって、犯罪によって混乱した状況から、あるべき関係や状況を再構築する、ということです。
こうした「修復的司法」は、国連でも積極的に活用することが採択され、EU各国などでは法制化も進んでいます。
その背景には、厳罰化のみでは犯罪やその被害を減らすことができない、ということがあります。日本で、この議論がどう進んでいくのか、注目すべきところです。
次回は、犯罪捜査における情報の取り扱いについて解説します。
#1 日本の刑事司法制度は変わってきている?
#2 スマホが犯罪捜査に活用される?
#3 日本では取り調べに弁護士を呼べない?
#4 えん罪ってなぜ起こるの?
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。