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#2 スマホが犯罪捜査に活用される?

黒澤 睦 黒澤 睦 明治大学 法学部 教授

個人の情報通信機器が犯罪捜査に活用される時代に向けて

情報化社会と言われる現代では、社会の様々な仕組みが変化してきています。犯罪捜査にも、従来にはなかった手法が取り入れられようとしています。

例えば、GPS捜査は、従来の尾行などが困難な被疑者に対して有効な捜査手法と考えられました。

しかし、2017年に、最高裁は、GPS捜査のやり方を取り決める法律がないことを問題として、ないことをやってはいけないという判断を示しました。以後、法制度を検討する動きもありますが、現在では、その動きは積極的ではありません。

実は、GPS捜査が公になったことで、捜査の対象となる被疑者がGPS端末の取り付けを警戒するようになったのです。そのため、捜査の実効性においてGPSの利用価値が下がってしまったのです。

一方、2000年に運用が開始された通信傍受は、当初は年間に数件程度しか活用されませんでした。適用条件が厳しかったためです。

しかし、2016年の刑事訴訟法の改正により、対象となる犯罪の範囲が広がり、傍受の方法も広がりました。今後は有効な捜査手法として増えていくことが予想されます。

すると、懸念されるのがプライバシー保護の問題です。

日本国憲法では、内心の自由を保障しています。それにより、国家は人の心の中には入らない、ということが大原則になっています。しかし、一旦、言葉として外に出ると、それが表現の自由であっても、他の人を傷つけてはならない、という制約が加わります。

そこで、人の権利や生命、身体、財産などを侵害することを示唆する内容を確認することに対して、通信の秘密やプライバシーの保護は一定程度制約される、という考えも成り立ちます。

もちろん、それが無差別に認められるわけではなく、犯罪捜査において通信傍受を行おうとする場合は、裁判所のチェックが入り、令状が必要になります。裁判所は、私たちの権利利益が不当に侵害されることがないか、公平中立に判断するという立場なのです。

このように、情報機器がプライバシーなど私たちの重要な権利利益が制約される形で犯罪捜査に活用される際には、法による規制は必ず必要ということです。

例えば、街頭に防犯カメラが設置されるようになったとき、それは大きな問題として取り上げられ、その後、個人情報保護の観点での法規制は進みましたが、犯罪捜査などに利用する際のルールや規制は法制度としては明確に設けられていません。

最近では、多くの国民が持ち歩いているスマートフォンには多大な個人情報が詰まっていますし、通信機能やその中継基地局、GPS機能、決済機能、さらにカメラ機能もあるため、場合によっては街頭の防犯カメラ以上の監視装置になります。

こうした情報を犯罪捜査に活用することは、今後、さらに進んでいくでしょう。それをどのように活用し、規制するのか、やはり、国会を通じて私たち自身が決めていくという意味で法制度が必要です。

こうした議論や動きに対して、私たちが関心をもつことは、とても重要です。

次回は、カルロス・ゴーン事件について解説します。


#1 日本の刑事司法制度は変わってきている?
#2 スマホが犯罪捜査に活用される?
#3 日本では取り調べに弁護士を呼べない?
#4 えん罪ってなぜ起こるの?

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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