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相手の立場に立って寄り添う気持ちが「やさしい日本語」になる

今後、ますます在留外国人が増える日本の社会を考えると、日本語教育に直接的に関わっているわけではない一般の市民の皆さんにも、できること、心がけられることがあります。そのひとつが「やさしい日本語」です。

これは、まだ日本語を十分に理解していない外国人にも、伝わりやすい日本語を使おうという考え方から始まったものです。

例えば、近所に暮らすようになった外国人と日頃からコミュニケーションをとったり、災害時などは重要な情報を伝えやすくするテクニックにもなるのです。

「やさしい日本語」と言うと、多くの人が、幼い子に話しかけるようなことばをイメージしがちです。「○○してくれるとうれしいな」、「〇〇してもらえたりする?」といった表現です。それは、一見、やさしいことばに感じますが、その意味を理解するのは難しくないでしょうか。

○○は、だれがだれに行うことなのか、何かをくれる・もらうのか、だれがうれしいのか、〇〇するか・しないかを聞かれているのか。

「○○してくれるとうれしいな」、「〇〇してもらえたりする?」と表現している人には、相手に配慮している気持ちがあるのだと思います。でも、このような表現は、ある程度の日本語の知識がある外国人でなければ、理解しにくいものです。

むしろ、「○○してください」と言った方が伝わります。つまり、やさしい気持ちであることと、ことば自体がやさしいことは別なのです。

基本としては、ひとつの文は、ひとつの動詞だけで終わらせること。余計な表現や修飾語は入れないことです。つまり、短く、単純で、わかりやすい文にすることです。

そして、対面であれば、言ったあとには、必ず「わかる?」と聞いて確認し、表情なども見ながら、わかったことが確認できたら、次の文を話すことが大事です。

また、漢字より、ひらがなのことばの方がやさしいと思いがちですが、この連載でも述べたように、中国人には漢字の方が伝わりやすいこともあります。話しながら、漢字で書いて見せるなどの配慮をした方が「やさしい日本語」になるでしょう。

ことばのやさしさ、わかりやすさには、絶対的な基準がなく、相手によって異なりますから、相手を基準にして、今使っている日本語がやさしいかどうか、確認しながら、ことばを選んだり、調整したりする柔軟さが必要なのです。

要は、相手の立場に立って寄り添う気持ちが、伝わりやすい「やさしい日本語」になるのです。この気持ちは、教育者だけでなく、多文化共生の一員である私たちひとりひとりにとっても、大切なことです。

多文化共生社会は、実は、日本だけの問題ではなく、世界中が取り組んでいる課題です。

日本は、外国人を受け入れるのが苦手な歴史的背景があったり、文字種の多い日本語は習得が難しいというハンデがあるからこそ、逆に、その課題にしっかりと取り組むこともできるのではないかと思います。

それは、教育者や研究者だけに任せる問題ではなく、私たちひとりひとりが考え、それを実践できる身近な問題でもあると思います。

※法務省は、「やさしい日本語」の文例や使い方なども紹介した「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」(2020年8月)を作成し、HPで公開しています。
http://www.moj.go.jp/isa/support/portal/plainjapanese_guideline.html
ぜひ、皆さんも一度ご覧になってください。


#1 在留外国人は日本語を学んでいるの?
#2 日本語は難しい言語?
#3 どうやって外国人に日本語を教えれば良いの?
#4 やさしい日本語って?

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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