2024.03.14
- 2021年2月19日
- リレーコラム
#1 在留外国人は日本語を学んでいるの?
小森 和子 明治大学 国際日本学部 教授整えられ始めてきた日本語教育の体制
2020年はコロナ禍により、在留外国人が激減しました。でも、少子高齢化が進み、労働力不足に直面している日本では、社会を維持していくためには外国人労働者に頼る部分が大きいことは変わりません。
むしろ、この機会に、多文化共生社会についてあらためて考えることが必要だと思います。
まず、日本社会で外国人労働者に活躍してもらうには、彼らに対する日本語教育が欠かせません。ところが、そもそも島国で、鎖国政策の歴史もあった日本は、多様な文化背景、言語を持つ外国人の受け入れには不慣れだったと言えると思います。
戦後、国費留学生の受け入れがはじまり、複数の大学で留学生のための日本語教育部門が設置されました。中国、韓国、東南アジアなどから国費生として来日する優秀な人材に対する日本語教育が本格的にスタートしたのです。
当初、国費留学生は、国立大学の特に理工系の学部を目指す者が主でした。したがって、彼らに対する日本語教育は、日本の大学の講義を受けるための予備教育でした。すなわち、学術的な日本語が教えられていたのです。
また、日本経済が成長するとともに、外資系企業などが本国から派遣した外国人のいわゆるエリートビジネスマンが日本に滞在するようになりました。彼らは、仕事では日本語を用いることはあまりなく、日本滞在も比較的短かったのですが、同僚とのコミュニケーションや日常生活のために、語学学校から教師を派遣してもらい、会社や自宅などで、プライベートで日本語レッスンを受けることが多かったのです。
こうした日本語教育の状況はバブル期まで続きます。つまり、その頃の日本語教育は、どちらかと言うと、特別な目的や理由を持った人たちへの一時的な教育として、行われていたわけです。
こうした状況は、日本の留学生受け入れ拡大政策によって大きく変わっていきます。留学生10万人計画、30万人計画が打ち出され、留学生を受け入れる教育機関も増えていきましたし、私費の留学生も多くなりました。また、以前は大学を卒業すると、すぐに帰国する人が多かったのですが、日本の企業に就職し、そのまま日本に住み続ける人も増えてきました。
また、その頃から日本の労働力人口の減少が顕在化し、いわゆる技能実習生や、介護分野の人材の受け入れも始まりました。在留外国人がどんどん増え、その目的や出身国なども多様化していったのです。
こうした背景から、「多様な文化を尊重した活力ある共生社会の実現・諸外国との交流の促進並びに友好関係の維持発展に寄与すること」を目指し、2019年に、「日本語教育の推進に関する法律」が制定されました。
この法律では、日本語教育の責務を負う者として、国、自治体、事業主の三者が定められました。ようやく日本語教育の体制が社会的にも整えられてきたのです。しかし、一方で、日本語学習の難しさもわかってきたのです。
次回は、日本語学習の難しさについて解説します。
#1 在留外国人は日本語を学んでいるの?
#2 日本語は難しい言語?
#3 どうやって外国人に日本語を教えれば良いの?
#4 やさしい日本語って?
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。