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日本語は世界的に見ても習得が難しい言語

異なる言語の、その違いを言語間距離と言います。自分の母語と異なる外国語を習得するとき、母語とその外国語の言語間距離が大きいほど、習得のハードルは高くなると言えます。

その意味では、漢字、ひらがな、カタカナと、基本の文字だけでも三種類あり、それを使い分ける日本語は世界的にも珍しく、他の言語との言語間距離が大きい言語の一つだと言えます。つまり、日本語を母語としない人にとって日本語は習得が難しい言語なのです。

では、同じような漢字を使う中国人にとっては、日本語は習得しやすいのかというと、確かに、最初はとっつきやすいと言うことができます。

私が行った研究でも、中国語母語話者で日本語を学んだ経験がない大学生約100名を対象に、和製漢語を85語見せたところ、一人当たり平均して10語は、正しく意味が推測できていたのです。特に、「不潔」、「屋上」、「貯金」などは、ほとんどの大学生が正解しました。和製漢語なので、中国語には存在しないことばなのですが、漢字から意味が推測できてしまうということです。

漢字は発音を表す表音文字ではなく、意味を表す文字です。特に、日本語と中国語には同じ漢字二字熟語を用いることも多く、そのため、文の中から漢字だけを摘まみ出して見ても、なんとなく意味がわかるようです。

その点では、学習するにあたって心理的な負担が軽く、日本語はそれほど難しい言語ではないと感じてもらえるかもしれません。

しかし、落とし穴もあります。例えば、この同じ漢字二字熟語を同形語と言いますが、その中には、日本語と中国語とで意味がまったく同じ同形同義語もあれば、意味がまったく異なる同形異義語もあります。また、同じ意味もあり、さらに異なる意味ももっている同形類義語というのもあるからです。

例えば、日本語の「緊張」は中国語にもあります(中国語は簡体字のため表記の文字は異なります)。

ところが、中国語の「緊張」には、「精神が張り詰める」という日本語と同じ意味の他に、「不足する、立て込んでいる」という意味もあるのです。そこで、中国語では「工作緊張了」(直訳すると、労働力が緊張している)というような使い方もされるのです。中国語にしかない独自の意味があるということです。

しかし、日本語の「緊張」にはそのような意味はないため、日本では、この文は意味を成さない文ということになります。

ところが、日本語教師にとっても、中国語をよく知らなければ、中国人の学習者がこのような間違いを口にするまで、中国語にしかない意味がある、それは日本語では使わない、ということに気づくことは難しいのです。「ない」ということに気づいたり、それを教えるということは簡単なことではないのです。

学習者は、語が同じというだけで、もうわかったような気になってしまい、正しく学ぼうとしないことがあります。教師も、直すべき誤りの原因が何かわからないため、的確な指導ができないことがあるのです。実は、こうした同形異義語や同形類義語は、日本語の中にたくさんあるのです。

こうした誤りをしないで、正しい日本語を習得していくためには、それを教える日本語教師の力量も重要になります。いま、正しい知識を備えた日本語教師を育成することが、日本語教育を推進していく上で、ひとつの課題でもあるのです。日本語母語話者なら、だれでも日本語が教えられるわけではないのです。

次回は、日本語教師について解説します。


#1 在留外国人は日本語を学んでいるの?
#2 日本語は難しい言語?
#3 どうやって外国人に日本語を教えれば良いの?
#4 やさしい日本語って?

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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