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書く力を伸ばし、実践知を言語化していこう

佐藤 郡衛 佐藤 郡衛 明治大学 国際日本学部 特任教授

ときに人生の指針となり、仕事のヒントとなり、コミュニケーションツールの一助となる「読書」。幅広い読書遍歴を誇る明治大学の教授陣が、これからの社会を担うビジネスパーソンに向けて選りすぐりの一冊をご紹介。

教授陣によるリレーコラム/40歳までに読んでおきたい本【33】

無着成恭『山びこ学校』(岩波文庫・1995年)

60歳を超えてもなお、さまざまな本を読んでいますが、自分の進路選択に影響を与えたという点で、無着成恭氏の「やまびこ学校」をおすすめします。

本書は、山形県の貧しい農村の中学校教師である無着氏が、生徒たちに生活綴方(せいかつつづりかた)の指導を行い、その成果をまとめた文集(1951年刊)です。綴方の流れを汲んではいるものの、時系列やありきたりの形体でなく、子どもたちの生の声を取り上げて本にしています。

「ご飯も食べられない」「お父さんが早く死んで辛い」といった飾らない文章は「こんな恥ずかしいことを書いていいのか」と批判も受けましたが、ひたむきな生活記録として戦後の教育に大きな影響を与えました。

私は高校生の頃に読みましたが、自分が農村で育ったこともあって、とても面白く読み、教育を目指す原点となった本です。いまにして思えば、この本のなかに、自分の想いを表現していく力、それを言語化していく力、発信していく力など、生活に根付いた形での学力があることがよくわかります。

これまでの学問は科学的な知識をベースにしてきましたが、大学でも社会でもいま必要とされているのは実践知です。

効率化や合理性だけでなく価値といったものを求められてきたときに、自分の経験・知識をどのように体系化して提示するか。

そのときに大切なのが自分自身を振り返ることであり、書く力です。ここに無着先生がやってきたことが繋がってくるのではないでしょうか。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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