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国税局が裁判で負けるケースも増えている

前回、バブルがはじけた1990年代頃に、欧米流の洗練されたタイプの租税回避が日本に入ってきたという話をしました。

そのような欧米流の租税回避で2000年ごろたびたび報道されたスキーム(租税回避手法)に、「オランダ匿名組合スキーム」といわれるものがあります。

外国企業が日本に子会社を作ってビジネスをするときに、オランダのペーパーカンパニーに日本での利益を送金し、日本に利益が残らないようにするというスキームです。匿名組合契約という特殊な契約が使われました。180億円とか、500億円とかの巨額の申告漏れの事件が、当時報道されました。

専門家が仕組んだ租税回避とみられる事件が裁判で争われることもあります。大型の裁判として特に有名なのが、「武富士事件」と「日本IBM事件」です。

「武富士事件」では、当時の武富士の会長が、香港に居住する長男に、オランダの関連会社に移してあった同社の1000億円以上の価値がある株式を贈与したのですが、その際に贈与税が課税されるか否かが争われました。

当時の税法では、国外にある財産(この場合は同社の株式)を国内に住所がない者に贈与する場合は課税の対象とならないことになっていました。

贈与が行われた時に長男の住所は日本にあったとして、国税局は課税を行いました。長男は香港と日本を行き来していましたが、滞在日数は香港の方が多くなっていました。

二審の高裁は、租税回避目的で滞在日数を調整したりしていたのだから、滞在日数が多いことを重視することはできないとして、武富士側の主張を退けました。

しかし、最高裁は2011年の判決で、住所は客観的に生活の本拠だったと認定できるかどうかで判断すべきであるとし、香港の滞在日数の方が多いことを重視して国側の主張を退け、武富士側の勝訴となったのです。

2015年には「日本IBM」事件の東京高裁判決が出ています。これは、日本IBMが、企業グループ内で組織の再編成を行い、当時の税法に従って計算したところ4,000億円もの株式譲渡損失が計上されたとして、その分日本での所得を減額して申告したというケースです。

国側は、法人税の負担を不当に減少させる行為だと主張しましたが、日本IBMは、株の譲渡等はグループ組織の再編の中で起こった正当なビジネス取引であり、租税回避ではないと主張しました。

国側はその主張を崩せず、裁判は日本IBM側の勝訴で確定しています。

武富士事件と日本IBM事件では、事件を契機に税法が改正され、今日では、同じ方法で納税額の削減はできないようになっています。

しかし、租税回避のスキームは、法律の条文が改正されても、3日あれば改正に対応した新しいスキームが生まれる、と言われます。つまり、税法を改正しても、新しい租税回避とのいたちごっこになってしまうわけです。

アメリカなどでは、租税回避を試みる納税者と課税当局とのせめぎあいが、何十年にもわたって積み重なってきています。その結果どのような対策が取られるようになったのか、アメリカなどの経験を学ぶことは、日本にとっても有効ではないかと思います。

次回は、アメリカの租税回避対策について解説します。


#1 租税回避行為って?
#2 日本でも租税回避行為が増えている?
#3 租税回避行為を取り締まることはできるの?
#4 租税回避は安全な行為か?

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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