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#3 租税回避行為を取り締まることはできるの?

袴田 裕二 袴田 裕二 明治大学 専門職大学院 会計専門職研究科 教授

税務判決において画期的であったグレゴリー事件判決

日本で欧米流の洗練された租税回避行為が見られるようになったのは2000年頃からですが、アメリカでは、古くから様々なスキームが考え出されてきました。「租税回避はアップルパイと同じくらいにアメリカ的なものである。」と言われるほどです。

法を改正して取り締まろうとしても、すぐに、改正した条文に則った新しい租税回避スキームが考え出され、いたちごっこになってしまいます。

現に、前回説明した武富士事件が問題になった後、税法が改正されて武富士事件と同じ租税回避はできなくなったのですが、改正された税法をさらにくぐりぬける租税回避が行われ、それを受けて税法がもう一度改正されています。

アメリカでは、1935年に、租税回避行為の分野で画期的な判決が出されました。グレゴリー事件判決と呼ばれる、連邦最高裁判所の判決です。この判決は、「取引は法令の規定にしたがって行われているが、精巧に作られたごまかしであって、法令の意図した取引でないことは明らかだ」として、租税回避を試みた取引に対して、税法上の非課税扱いを認めませんでした。

アメリカではその後、今日までの80年以上の間に、グレゴリー事件判決が2,000件近くにも及ぶ租税回避事件の裁判で引用され、引用される中で、租税回避について判断する判例法上の基準が徐々に形成され、数種類の精緻な基準が作られるに至りました。

他方、日本でも、有名な租税回避事件である「ヤフー事件」を巡って、似たような基準が形成されました。

ヤフー事件では、ヤフーが赤字会社を買収し、その赤字を使って所得を減らして申告したところ、この赤字を使うことは認められないとして課税処分を受けました。買収した会社の赤字を使うためには事業の継続が条件になっていました。

ヤフー側は裁判で、税法上の事業継続条件を満たしている主張しましたが、一審の東京地裁(2014年)は、形式的には条件を満たしているが、法令の意図(趣旨・目的)から逸脱した取引だと、グレゴリー事件と同様の判断をして、ヤフー側の主張を認めませんでした。

しかし東京地裁の判決は、実務家などから、企業買収など組織再編にかかる税制の趣旨・目的は一般の納税者にはわかりにくいという批判を受けます。

この批判を受けて、最高裁は2016年の判決で、租税回避を判断する精緻な基準(ただし、日本のこの基準は組織再編分野限定で、租税回避一般に及ぶものではありません。)を示しました。

アメリカで80年以上かかって作られた租税回避を否認する基準が、日本では2年で作られたともいえます。基準としては、アメリカの基準に似ているところもありますが、異なる点もあります。

アメリカの基準を研究している眼でみるとヤフー事件で示された基準には、基準としてどうだろうか、と思うような点もあります。この基準が今後どのように機能していくか、注視していく必要があると思っています。

次回は、租税回避は安全な行為なのかという点について解説します。


#1 租税回避行為って?
#2 日本でも租税回避行為が増えている?
#3 租税回避行為を取り締まることはできるの?
#4 租税回避は安全な行為か?

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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