2024.03.21
- 2020年11月17日
- リレーコラム
#3 日本の企業はサステナビリティを重視している?
長野 史麻 明治大学 経営学部 准教授グリーン・ウォッシュと見なされかねない日本の企業の取り組み
前回はフランスのダノンの取り組みについて紹介しましたが、日本でも多くの企業がCSRやサステナビリティを重視することを表明しています。しかし、それがどこまで理解され、浸透しているのかは、疑問な点もあります。
例えば、2020年7月、貨物船がインド洋の島国、モーリシャスの沖合で座礁し、大量の重油を海に流出させ、自然環境に深刻な影響を及ぼしました。この貨物船の船主も、チャーターしていた会社も、日本の企業です。
事故後の記者会見によれば、船主は保険に入っており、賠償責任は果たせるということです。その点のリスク・ヘッジはなされているようです。
今回、この貨物船をチャーターしたのは船主よりも企業基盤が圧倒的に大きい大企業ですが、その企業は、日頃から、ホームページなどで、サステナビリティに対する取り組みを重視し、「経営計画と連動したサステナビリティ課題」を特定し、事業活動を通じてその解決を図っていく旨の発信を行っています。
海難事故は、海洋をはじめとした自然環境に深刻な汚染をもたらす恐れがあるため、その企業は海難事故を撲滅するために船の運航には細心の注意を払っていると言っており、海難事故の撲滅をサステナビリティ課題のゴールとして挙げているのです。
そうした発信もあり、この企業はESG投資の対象にも選ばれています。
実際、この企業は安全運行支援センターを設置し、文字通り、船の安全運行を支援しているということです。
ところが、今回の事故後の記者会見では、「トラブル発生当時から安全運行支援センターに情報が入り」と言っています。
これは、座礁する前から航路を外れはじめていた、つまり、トラブル発生のだいぶ前から正常な航路を運行していなかったにもかかわらず、貨物船の状況を把握しておらず、当然、警告なども発信していなかったということです。要は、安全運行を支援できていなかった、ということになります。
実際、安全運行支援センターは「対象となる運航船は約800隻あり、すべての船の動静は把握できかねる」と弁明しています。
さて、これは、日頃から掲げている、海難事故を撲滅し、自然環境に汚染をもたらさない、という課題を解決するためのシステムを構築していた、ということになるでしょうか。
この問題は、この企業だけの問題ではないと考えています。サステナビリティに関する課題解決を掲げている日本の企業の多くが陥っている問題だと思います。
すなわち、サステナビリティの課題解決に取り組むとはどういうことで、そのためにすべき事柄や、その達成度を見える化して、多様なステークホルダーに発信し、その情報を共有していく意識が希薄だったり、その方法自体の理解が遅れていたりするのです。
これでは、グリーン・ウォッシュやSDGsウォッシュと見なされかねなくなります。
次回は、政治と企業行動の関係について解説します。
#1 企業もサステナビリティに関わる必要がある?
#2 サステナビリティ経営を株主は認める?
#3 日本の企業はサステナビリティを重視している?
#4 サステナビリティ経営は政治に左右される?
#5 日本の企業は時代遅れになる?
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。