明治大学の教授陣が社会のあらゆるテーマと向き合う、大学独自の情報発信サイト

#5 日本の企業は時代遅れになる?

長野 史麻 長野 史麻 明治大学 経営学部 准教授

日本企業はサステナビリティの取り組みが中核事業の戦略とリンクしていない

2014年に、世界4大会計事務所のひとつであるPwCが、ロンドン証券取引所に上場する時価総額上位100銘柄と、日本のTOPIX100構成銘柄に含まれる100社に対して、サステナビリティ報告書の調査を行っています。

その結果、「日本企業はサステナビリティの取り組みが中核事業の戦略とリンクしていないことが多く、長期的な視点で何が重要な課題であるのかを明確に示せていないこと、具体的な取り組みにおいてもその実績が計測可能なKPIによって示されていないこと」が指摘されました。KPI(Key Performance Indicator)とは、企業目標の達成度を評価するための指標を指します。

要は、世界基準から見ると、日本企業はサステナビリティの取り組みが不十分であり、その達成度も実績も曖昧であるということです。

私は、日本企業がグリーン・ウォッシュばかりであるとは見なしていません。それより、マネジメント・コントロール・システムとサステナビリティ・コントロール・システムを別個のものとして捉え、その統合を考えていない、もしくは、統合の方法がわかっていないことが問題なのだと思います。

この連載の第1回で述べましたが、日本の企業は、サステナビリティに関することは企業にとってコストだという旧態依然の認識からなかなか進歩していないのです。

サステナビリティ課題は、事業活動を通じて解決でき、企業の収益に結びつくものを選択する必要があります。広告宣伝や単なるIRではありません。その企業の技術やサービスで社会が抱える課題を解決し、対価を受け取るものであり、その仕組みは長期的に企業価値を高めることに繋がるマネジメント・コントロールとも言えるわけです。

自社にどのようなサステナビリティ・マネジメント・コントロールの仕組みを構築していくのかは、各企業それぞれによって異なります。

なにが自分たちの強みで、サステナビリティの課題への解決に対して、自分たちの強みをどのように活かすことができるのか、それは各社で異なるからです。

例えば、女性の活躍推進もそのひとつかもしれません。日本は役員に占める女性比率がG7の中でも極端に低くなっています。固定的な価値観の中では思考が硬直しがちです。多様な視点を取り入れるためにも女性の活躍を推進することは、その企業にとって強みとなるはずです。

その意味では、長時間労働の是正に繋がるテレワークや働き方改革がコロナ禍によって普及したことは、ひとつのきっかけになるかもしれません。

企業によって長時間拘束される状況では難しかった、家事や子育て、介護、あるいは副業が促進され、その体験が本業に還元されれば、新たな発想やイノベーションも起こりやすくなるかもしれません。

サステナビリティ経営はトップや経営陣だけが考えるものではなく、現場の従業員が当事者意識をもち、自分たちの強みや自分たちになにができるのかを、ボトムアップしていくことも重要です。

日本企業が世界の企業の中で時代遅れになっていかないためにも、私たち一人ひとりにできることはあると思います。


#1 企業もサステナビリティに関わる必要がある?
#2 サステナビリティ経営を株主は認める?
#3 日本の企業はサステナビリティを重視している?
#4 サステナビリティ経営は政治に左右される?
#5 日本の企業は時代遅れになる?

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

リレーコラムの関連記事

個性をぶつけ合うことで、新しいものを生み出そう

2021.4.15

個性をぶつけ合うことで、新しいものを生み出そう

  • 明治大学 理工学部 准教授
  • 新名 良介
好きな作家を見つけ、世界を広げる第一歩にしよう

2021.4.8

好きな作家を見つけ、世界を広げる第一歩にしよう

  • 明治大学 理工学部 准教授
  • 工藤 寛之
「面白い!」を原動力に、自分の道を究めよう

2021.4.1

「面白い!」を原動力に、自分の道を究めよう

  • 明治大学 農学部 准教授
  • 大里 修一
大きな目標に向かって、ストイックに打ち込もう

2021.3.25

大きな目標に向かって、ストイックに打ち込もう

  • 明治大学 理工学部 専任講師
  • 我田 元
#4 えん罪ってなぜ起こるの?

2021.3.19

#4 えん罪ってなぜ起こるの?

  • 明治大学 法学部 教授
  • 黒澤 睦

新着記事

2021.04.14

先住民族が滅びる民というなら、先に滅びるのはきっと私たち

2021.04.07

地球の姿とその進化を知ると、人類の進むべき方向がよりよく見えてくる

2021.03.31

先端医療に貢献するものづくりは、汗の結晶!?

2021.03.24

農作物の被害を減らす最新技術は植物自体から学んだもの

2021.03.17

デジタル機器に欠かせない透明導電膜の作製技術を自然界に学ぶ

人気記事ランキング

1

2020.12.16

農村には「なにか」ある

2

2019.03.27

高校で必修となる「地理」は、もう暗記教科ではない楽しさがある

3

2020.04.01

歴史を紐解くと見えてくる、台湾の親日の複雑な思い

4

2021.04.07

地球の姿とその進化を知ると、人類の進むべき方向がよりよく見えて…

5

2019.07.31

万葉集に由来する「令和」に込められた、時代にふさわしい願い

リレーコラム