2024.03.21
- 2020年11月20日
- リレーコラム
#4 サステナビリティ経営は政治に左右される?
長野 史麻 明治大学 経営学部 准教授エリサ法新規則案成立によってアメリカの企業行動は変わるか
CSRやサステナビリティ経営は、いま、世界の大きな潮流になっています。それは社会のニーズに応えるためですが、一方で、企業の立場からすると、政治の影響も大きく受けることになります。
例えば、アメリカでは、2020年6月に、企業年金の受託責任を定めた法律であるエリサ法の新規則案が提出されました。その趣旨は、年金運用では金銭的な利益のみを考慮すべき、というものです。
つまり、企業年金の運用にあたっては、ESG投資などは考慮するな、ということになります。
実は、アメリカでは共和党と民主党では環境に対する捉え方が大きく隔たっています。
共和党のブッシュ政権の時代、やはり、企業年金運用は経済的要因だけで行うべきという方針が立てられ、それが、アメリカでサステナビリティ経営が進まなかった要因になったと言われています。
ところが、民主党のオバマ政権の時代になり、そうした方針が撤廃されると、ESG投資が爆発的に進んだのです。
当然、企業行動は政治に左右されます。その意味では、トランプ政権がエリサ法の新規則案を成立させた場合、企業のサステナビリティ経営が後退したり、ESG投資が停滞する懸念はあります。
しかし、サステナビリティ経営が、長期的には企業価値の向上に結びつくという認識が強まってきた今日では、企業行動にそれほどの変化は起きないのではないかとも考えられています。
企業のトップがしっかりとした企業理念をもち、自社をどう発展させていくかについて、確固たる意思と考え方をもっているかどうかと関わってくるからです。近年のアメリカの大企業トップの声明をみると、今回の新規則案が採択されても、サステナビリティ経営にさほどの影響はないのではないかと期待できます。
翻って、日本の企業はどうでしょう。前回述べたように、サステナビリティを重視して取り組んでいると表明しながら、その実態は、素晴らしい表明ほど、システムの構築が十分になされていたわけではないことが露呈しました。
欧米などでは、企業が社会の課題に対する取り組みを行うと表明すれば、それは社会との約束と見なされます。その約束を果たさなかったり、見せかけだけだったりした場合は、グリーン・ウォッシュとか、SDGsウォッシュと見なされ、批判されるのです。
今回のエリサ法の新規則案が成立した場合も、それにともなって、それまでのサステナビリティ経営を手のひら返しするような行動をとる企業は、おそらく批判を受け、企業としての成長が停滞するかもしれません。
いま、私たちはそうした時代にいることを、日本の企業もしっかりと認識し、世界基準の取り組みや、その計測方法を取り入れていかなくてはならないと思います。
次回は、サステナビリティ経営の計測方法について解説します。
#1 企業もサステナビリティに関わる必要がある?
#2 サステナビリティ経営を株主は認める?
#3 日本の企業はサステナビリティを重視している?
#4 サステナビリティ経営は政治に左右される?
#5 日本の企業は時代遅れになる?
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。