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#3 住民主体の防災とは自己責任ということ?

小林 秀行 小林 秀行 明治大学 情報コミュニケーション学部 准教授

自己責任とは、自らの命に責任を負うことで社会全体の負荷を下げるということ

前回、災害の避難において、絶対の安全を保証する方策を提示することはできない、と述べました。もうひとつ重要なことは、黙っていても誰かが助けてくれる、とは思わないことです。

災害発生時、日本では、往々にして自治体をはじめとした行政機関に頼りがちです。また、自治体も責任感が強く、被害を減らすために頑張ろうとします。

しかし、自然の状況はもちろん、住民一人ひとりの状況によっても必要な支援は変わってきます。自治体が単独で住民のおかれた状況を個別に把握し、適切な支援を展開することは非常に困難です。

例えば、避難が遅れてしまった事例の原因のひとつに、自治体からの避難指示や、消防団が避難を呼びかけに来るのを待ってから避難を行ったために、安全に避難できる時期を逸してしまったことがあるとわかっています。

これは「指示待ちの姿勢」と呼ばれ、災害研究においても長く課題となっている問題です。

もちろん、正しい情報を基に行動することは間違っていませんが、自治体が住民一人ひとりの個別の状況をすべて把握できるわけではありません。自分や家族を守る主体は自分自身であり、そのためには自ら情報を積極的に集め、判断することが重要であることを強く意識してほしいと思います。

このとき、あわせて指摘しておきたいのは、近年、責任追及として自己責任という言葉が使われるようになっていますが、この言葉は決してそのような意味合いではないということです。

自己責任論は、一人ひとりが自らの命に最大限の責任を負うことによって、社会全体の負荷を下げ、重要な対策により多くの労力をかけられるようにするため、つまり、より多くの人々を救えるようにするために、一人ひとりが最善を尽くすことが必要だという考えによって成り立っていると、私は解釈しています。

誰もが同じ社会の一員であることを自覚してほしい、という意味で「自己(も社会の一員であるという)責任(を負っている)」という言葉があるのであって、結果責任、不幸な結果となってしまったことの理由づけとして、「自己(に問題があったのだから一人で)責任(を負ってくれ)」という言葉があるのではないのです。

例えば、公助、共助、自助という言葉がありますが、これは、自助でできることは公助、共助では行わないというような相互に独立している考え方ではありません。

社会全体で最も多くの人命と財産、人々の生活などを保全できるように、お互いがなすべきことを最大限になすという、独立しつつも互いに協調、相互補完の関係にあるという考え方を示しています。自己責任もそこに位置づけられると思います。

避難指示を待っていては被災すると判断したとき、自ら適切な避難を行うためには、日ごろから、災害に関する情報に触れていたり、どうすれば自治体や専門機関の適切なサポートを受けられるか、すなわち公助や共助との協調の仕方を知っていることが非常に重要になります。

また、高齢であったり、体に障がいなどがあって自力での避難が難しい方は、事前に、自治体にそうした状況を伝えたり、家族に意思を伝えておくことも自己責任として大切な自助行為なのです。それによって、いざというとき、適切な公助や共助が有効に機能することができます。

すなわち、住民主体の防災とは、自治体や専門機関からの適切なサポートのうえで、住民が災害に関する情報を積極的に活用し、判断し、自主的に避難の意思決定を行うようにならなければ、一人ひとりの状況にあわせた避難の達成は困難であるという意味で、必須の取り組みと言うべきだと思います。

次回は、災害復興について解説します。

#1 自然災害の備えに正解はない!?
#2 どうすれば安全な避難ができるの?
#3 住民主体の防災とは自己責任ということ?
#4 復興とは町を元に戻すこと?
#5 災害に備えて私たちにできることは?

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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