2024.03.21
- 2020年5月22日
- リレーコラム
#5 フードバンクと社会保障制度は連携するの?
小関 隆志 明治大学 経営学部 教授社会保障制度を補完したり、連携することでより有効になるフードバンク
この連載で、アメリカはフードバンクの歴史が半世紀以上あり、現在では、42億食分を配布する世界最大規模だと述べました。
そのアメリカに、フードスタンプ(正式にはスナップ(SNAP)という名称)という制度があります。
これは、食事を満足にとることができない生活困窮者に対して、政府が食品と交換できるチケット(現在ではカード式)を配布する仕組みです。
このチケットがあれば、自分の好きな食品、必要な食品を無料で手に入れることができるのです。要は、現物支給という生活保護の仕組みです。
フードバンクが世界最大規模のアメリカでも、実は、フードスタンプという社会保障制度の方がメインです。
日本では、生活保護は現金支給が基本です。使い途は自由で様々なものが買えます。それによって自立を促すということです。
しかし、生活保護の申請を出せばすぐに現金支給を受けられるわけではなく、審査があり、適用されるとしても2~3週間かかります。
その間、どうやって生きていけば良いのでしょう。生活保護の申請を出す人は、その段階ですでに食べるのにも困っている場合が多いのです。
そこで、こうしたときにフードバンクを利用することが、フードバンクのひとつの活用方法です。
例えば、生活困窮者に社会保障制度を適用するには、まず、社会福祉協議会などに相談に来てもらう必要があります。しかし、当事者たちにとっては、相談に行くこと自体が心理的にハードルが高いのです。
そこで、相談所ではフードバンクから食品の配布を受けているところがあります。相談に来た人に、その食品を渡すのです。
すると、困窮者が相談に行きやすくなるという効果を発揮します。フードバンクが社会保障制度を受けるきっかけになるわけです。
また、社会福祉協議会に相談に来て貰えれば、生活困窮者の存在を把握でき、生活保護の適用までの間、フードバンクの食品を提供することもできます。
「食料への権利」論者は、社会保障制度を充実させることが重要であり、フードバンクの存在意義は否定しています。
もちろん、それも一理ありますが、社会保障制度や相談所があっても、人々がそれを積極的に利用しなければ、無いのと同じことになりかねません。フードバンクは、人々を社会保障につなげる促進剤のような意義があると思います。
日本のおおかたのフードバンク団体も、慢性的に食料を渡し続けて依存を起こしてしまっては逆効果であり、自立までの一時的な支援にとどめるべきだ、という方針だと思われます。
一般家庭の皆さんも、家庭で余っている食品を寄付するフードドライブという仕組みがあります。また、フードバンクの団体などでボランティアを募集していることもあります。最近ではウェブサイトで検索すれば、そうした情報はすぐに見つかると思います。
こうした活動に参加してみると、日本社会の格差の問題や、生活困窮者の問題に触れ、関心をもつことができると思います。
少子高齢化が進み、高齢者の一人世帯も増える日本社会では、こうした問題は他人ごとではありません。
そういった意味では、フードバンクは、私たち自身が福祉を考えるきっかけにもなる活動だと思います。
#1 フードバンクとは?
#2 フードバンクは食品ロスと生活困窮者を救う?
#3 フードバンクはどれくらいの食品を配布しているの?
#4 フードバンクが正しいというのは間違い?
#5 フードバンクと社会保障制度は連携するの?
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。