
2021.04.14
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前回、日本で廃棄されている食べ物は年間600万トン以上と言われていると述べました。
それに対して、フードバンクの団体が寄付を受けて配布している食品は年間4000トンです。これは、何人に配布できる量なのでしょうか。
EUのフードバンクでは、1食あたり180グラムを目安にしています。すると、4000トンは、約2200万食に相当します。
仮に、1日3食をフードバンクの食品でまかなおうとすれば、1人年間1095食必要です。すると、2200万食とは、約2万人分ということになります。これは十分な量でしょうか。
実は、日本はOECDの中で相対的貧困率が高い国だと指摘されています。17歳以下の子どもの7人に1人が貧困世帯だというデータもあります。すると、その子どもたちの数は280万人余りにもなるのです。
日本のフードバンクが配布している食品の量は、絶望的に少ないことがわかります。
では、フードバンクの活動をもっと拡充させて、配布できる食品量を増やすことが必要なのでしょうか。
フードバンクの歴史が半世紀以上になり世界最大規模のアメリカでは、42億食分を配布していると言います。ところが、実は、それでも足りないのです。
実際、フードバンクが始まった1960年代から現在にかけて、アメリカの貧困問題は改善されたのかというと、決してそうではありません。
量とともに質の問題もあります。人の食事は、主食と肉や魚、野菜、牛乳など、栄養のバランスが取れていて良い食事だと言えます。
ところが、フードバンクが配布する食品は、余った食品なのでバランスをとることが難しいのです。実際、日本の場合、すべての団体が冷凍倉庫を設置できているわけではないこともあり、常温保存できる缶詰や乾麺、調味料、菓子などが多いのです。
だとすると、フードバンクとは、困っている人に食事を提供するというより、余って困った食品をリサイクルの一環として、ただ処理している活動なのか、という見方も出てきます。
もちろん、食事の質のことを考え、農家に協力してもらい、古米を貰ったり、形が規格外で出荷できない野菜を貰う団体もありますが、全体から見れば、その量はわずかなのです。
欧米では、フードバンクの団体が自分たちの資金で肉や野菜など生鮮品を買い、栄養バランスを考えた配布をしているところもあります。
フードバンクに資金があるのは、企業や裕福な人たちからの寄付金が多いからです。それだけ、フードバンクの活動が社会的に認知されているということです。
しかし、そんな欧米でも、配布できる食品は足りないのが現実なのです。
もちろん、1日3食すべてをフードバンクが配布する食品でまかない続けるというのは現実的ではありません。実際は、公的な社会保障制度も利用することになります。
しかし、フードバンクは良いもの、フードバンクをやっていれば安心、なんとかなると、素朴に思うことに疑問をもつことは重要です。
次回は、フードバンクの課題についてさらに解説します。
#1 フードバンクとは?
#2 フードバンクは食品ロスと生活困窮者を救う?
#3 フードバンクはどれくらいの食品を配布しているの?
#4 フードバンクが正しいというのは間違い?
#5 フードバンクと社会保障制度は連携するの?
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。