2024.03.21
- 2020年1月21日
- リレーコラム
#3 どうすれば格差を是正できる?
平口 良司 明治大学 政治経済学部 教授税制度改革よりも教育格差の是正が重要
格差是正の方策としてよく挙げられるのが、累進課税の強化、つまりは所得税の最高税率を上げることです。また、消費税の税率を上げて、生活保護の支給額を上げるといったことも考えられます。
しかし、経済成長の観点から言うと、こうした政策は良い影響を与えません。
例えば、日本の最高税率は、いま、45%です。世界にはこれより高い国もありますが、高所得者層は海外に移住してしまうことが多々あります。日本もそうならないとは限りません。
また、生活保護の支給額を上げると、一生懸命働くインセンティブが削がれてしまう恐れもあります。
働かなくても暮らせることになると、それは社会からの離脱に繋がりかねません。すると、生活保護のお金がどこから出ているか、という認識も希薄になってしまうと思います。
その点、福祉国家と言われる北欧などでは、生活保護受給者も税金を払う制度になっています。そのため、自分も社会に参画しているという意識が損なわれず、公的サービスを受けることと負担の関係も見失うことがないのです。
すべてを北欧に見習う必要はありませんが、日本もこうした制度を学ぶことは必要だと思います。
格差の是正を考える場合、所得という結果だけを見るのではなく、その所得を生み出すものはなにかを考えることが重要です。それは、教育だと思います。
いまの日本では、貧困の家庭では、子どもが望む教育を受けられないケースが多くあります。いわゆる教育格差です。
すると、学歴の高くない子は収入の良い職種に就きづらく、いつまでたっても貧困から抜け出せない連鎖に陥ってしまうことがあります。
もちろん、意図をもって高卒で社会に出る人もいます。それが、その人の生き方の選択であれば良いのです。問題は、経済的な理由で、大学にいきたくてもいけない、あるいは、最初から大学進学をあきらめている子どもたちがいることです。
必ずしも、高等教育が成功の条件ではありませんが、少なくとも、経済的な理由に拘わらず、だれもが望む教育を平等に受けられる制度づくりは必要だと思います。
前回、新たな技術革新がイノベーションを生み、それが経済成長に繋がり、格差を生む要因になると述べました。高等教育を受けることによって、そうした技術革新にたずさわる可能性は高まります。
つまり、教育格差の是正が、経済的な格差是正に繋がっていくのです。こうした意味からも、教育の支援は、社会にとって重要な政策であると思います。
次回は、格差のある社会で、変わるライフスタイルについて解説します。
#1 日本はどうして格差社会になってしまったの?
#2 一度ついた格差は取り戻せない?
#3 どうすれば格差を是正できる?
#4 個人での格差是正策はある?
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。