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#4 個人での格差是正策はある?

平口 良司 平口 良司 明治大学 政治経済学部 教授

副業を行うライフスタイルは有効な手段

前回は、格差是正のために教育の支援制度の必要性を述べましたが、もうひとつ必要な政策として、非正規雇用の待遇改善があります。

一生懸命働いているにも関わらず十分な収入が得られず、貧困から抜け出せないため、ワーキングプアと言われる人たちもいます。

企業による待遇改善が求められますが、この連載の第一回でも述べたように、こうした雇用スタイルが生まれた経緯を考えると、十分な待遇改善は難しいのが実情だと思います。

むしろ、非正規雇用の待遇を改善しようとすれば、正社員の待遇を下げていかざるを得ないのではないかと思います。

だとすれば、企業が生き残りのために雇用形態を変えていったように、働く側もライフスタイルを変えていくことが対策のひとつになると思います。

例えば、いままでのように、朝の9時から夜の10時まで、ひとつの会社で働きづめるのではなく、定時で上がり、そこから別の仕事に就くのです。

もう、そんなことはやっているという人もいるかもしれませんが、ここで注意してほしいのは、副業だからといってアルバイトのようなつもりで単純作業的な仕事をするのではなく、正業のキャリアを活かしたり、あるいは、新たな技能を身につけられるような仕事に就くことです。

例えば、大学で、学生に自分のビジネス体験を伝える講師などは、多くのビジネスマンができると思います。

また、週末に、農村に行って農作業を手伝ったり、介護職の手伝いをしながら資格取得の国家試験を目指すようなやり方もあると思います。

いま、日本では、多くの職種で人手不足になっています。資格やノウハウが必要な職種もありますが、逆に、それを得る機会でもあるのです。すると、それは、個人の新たな技能となり、その人のキャリアを広げてくれることにもなります。

雇用形態が流動化し始めた社会だからこそ、働く側も柔軟に対応し、新たなキャリアを積んでいくようなライフスタイルが上手な生き方であり、それが格差是正にも繋がっていくのではないかと思います。

また、格差というと所得のことと思いがちですが、近年、進んでいる研究に、資産格差の問題があります。

膨大な資産によって、働かなくても暮らせるような層がいるのですが、資産は外からでは把握が困難で、適正な税金をかけるのが難しいのが現状なのです。

さらに、それは子から子へ受け継がれ、格差の固定化に繋がっています。この連載で述べてきたように、努力によって得た収入による格差は認めるべきですが、それが無条件に子に伝わるのは平等に反します。

そのため、資産格差は所得格差以上に大きな問題だと考えられています。そこに適正な税をかけることができれば、再配分が広がり、格差の是正と流動化に繋がるのです。

この資産格差問題の解答はまだ出ていませんが、私たち研究者は、必ず解決すべき問題だと捉えています。

最後に、資産格差の研究のパイオニアであるフランスの経済学者トマ・ピケティは、著書の中で、個人が持つ資産は金融資産に限らない、と語っています。

技能やノウハウ、人間関係、知識など、その人のキャリアで得られたあらゆるものが、その人の資産であるというのです。

つまり、その個人資産が収益を生むのであり、それでも、その個人資産に税金がかけられることはありません。

ライフスタイルを変えていくことによって大きく増えるであろう個人資産は、やはり、非常に有効だと思います。

#1 日本はどうして格差社会になってしまったの?
#2 一度ついた格差は取り戻せない?
#3 どうすれば格差を是正できる?
#4 個人での格差是正策はある?

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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