2024.03.21
- 2020年1月17日
- リレーコラム
#2 一度ついた格差は取り戻せない?
平口 良司 明治大学 政治経済学部 教授むしろ、格差が固定化すると社会は衰退する
前回、競争社会では格差が拡大することはやむを得ないと述べました。しかし、格差は一時的に広がっても、やがて平等化に向かうという考え方があります。
経済成長論の分析では、長期的な経済成長の源泉は技術革新です。例えば、エジソンの数々の発明がそうであったように、あるいは、近年では、青色発光ダイオードやリチウムイオン電池の開発がそうであるように、技術革新が画期的なイノベーションとなり、それは経済成長を牽引します。
その結果、成功した企業や企業家は莫大な富を得て、それは格差を生むことになります。
一方で、その技術はやがて他企業や他産業に伝播し、人々の生活水準を全体的に向上させます。
例えば、電気の開発によって、それまでの照明や、機械の動力などがガラッと変わっていったようにです。
すると、社会が成熟し、それにともなって人々の権利意識が高まり、政治力をもつようになっていきます。それは、集中していた富の再配分の政策を促し、その結果、社会は平等化に向かうという考え方です。これは、クズネッツの逆U字仮説と言われています。
この仮説は50年以上前に発表されたものですが、その説が正しいかどうかについては、いまでも様々な議論があります。
しかし、重要な点は、まず、技術革新によるイノベーションが経済を成長させること。そして、その結果、格差が拡大すること。そのことを、私たちは受け入れるべきであるということです。
なぜなら、イノベーションを起こす者は、大きなリスクを負いながらそれを成し遂げているのです。失敗する確率も高い中で成功した者には、十分な報酬があるべきです。それがイノベーションを起こすインセンティブでもあるからです。
そして、そのイノベーションによって、私たちの生活水準は向上するはずなのですから。
問題は、技術革新によって生じた格差を固定化させないことです。
徐々にで構いません。まず、仮説にあるように、その技術を様々な企業で活用できるように広げていくことが必要です。
それは、各企業にとってのビジネスチャンスであるばかりでなく、社会のインフラとなり、社会全体の成長や活性化に繋がっていくことにもなると思います。
また、集中していた富が広がっていったり、あるいは、それも仮説にあるように、政治的な再分配の仕組みを発想するきっかけになっていくかもしれません。
逆に、最初の成功者が技術や富を独占し、これらの流れを起こさせなかったとしたら、それは、社会そのものの衰退に繋がっていくことになると思います。
最も望ましいのは、まったく別のところから、新たな技術革新とイノベーションが起こることです。格差は流動化し、経済や社会の成長や活性化も促進することになります。
では、そのために必要なことはなにかと言うと、やはり、格差の状態を固定化させないことなのです。
次回は、格差を固定化させないために必要なことについて解説します。
#1 日本はどうして格差社会になってしまったの?
#2 一度ついた格差は取り戻せない?
#3 どうすれば格差を是正できる?
#4 個人での格差是正策はある?
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。