2024.03.21
- 2018年7月6日
- リレーコラム
#4 行動経済学で政策も成功する?
友野 典男 明治大学 情報コミュニケーション学部 兼任講師行動経済学を基にした政策制度の立案は、世界ではもう始まっている
みなさんは、運転免許証や保険証の裏に、自分の死後の臓器提供意思表示欄があることをご存じでしょうか。日本では、意志を記入している人は1割にも達していません。しかし、世界には、臓器を提供するという表示が9割に達している国もあります。なんと慈悲深い国民ばかりの国だと思ってしまいますが、実は、これには一種のからくりがあります。最初から臓器提供をする表示になっていて、それが嫌な人は、拒否に印をつけるシステムになっているのです。日本では逆に、初期設定は「臓器を提供しない」であり,希望者は印をつけることになっています。つまり、日本であれ、世界各国であれ、ほとんどの人は臓器提供の意思表示に対しても、理性的判断を下していないということなのです。おそらく、臓器提供意思表示欄を読むことすら、面倒という感情に流されて、目も通していないのが実状でしょう。
人間の、この行動パターンを政策に活かした例があります。アメリカの年金政策です。アメリカの年金制度は日本とは異なり、様々なファンドの中から各個人が自分で選び、積み立てるシステムです。すると、ファンドを選択して年金に加入する人は国民の5割にも達せず、老後に破産する人が続出し、社会問題となっていました。そこで、会社に勤めた人は自動的にひとつのファンドに加入し、積立金は給料から天引きとし、そのファンドを変えたければ自分で手続きするシステムに変えたところ、加入者は9割近くにまで跳ね上がったのです。実は、この制度を立案するチームに、セイラー教授も加わっています。行動経済学を応用して、感情に影響される人間の行動パターンを捉えれば、政策をより有効に実施する制度をつくることができたわけです。
アメリカやイギリスでは、政府の中に行動経済学や行動科学を基に政策を考えるチームができています。科学的な研究の成果を迅速に取り入れる柔軟性があるのです。ところが、日本ではまったく取り入れられていません。旧態依然の政策制度の設計が行き詰まっているのは、明らかだと思うのですが。
次回は、企業などの経済活動にも行動経済学を活かすことについて解説します。
#1 いま注目の行動経済学って、なに?
#2 行動経済学で賢い消費者になれる?
#3 失敗しない買物テクニックとは?
#4 行動経済学で政策も成功する?
#5 行動経済学で企業経営も成功する?
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。