明治大学の教授陣が社会のあらゆるテーマと向き合う、大学独自の情報発信サイト

#5 子育ては家族の責任?

明治大学 文学部 教授  加藤 尚子

家族単位の子育てには、サポートする社会的制度が必要

この連載の第1回で、児童虐待は様々な複数の要因が絡み合って起きていると述べました。逆にいえば、いま虐待などを起こしていない家庭でも、何かのきっかけで起こり得る可能性があるということです。以前、大阪で、ネグレクトによって2人の子どもが餓死するという悲惨な事件が起きました。虐待したお母さんは夫と離婚してシングルマザーだったのですが、離婚前は夫の実家で暮らし、何の問題もなく子どもを育てていました。しかし、離婚後は子ども2人を抱えて働く中で、気持ちや時間のゆとりがなくなり、とうとう虐待死に至ってしまったのです。この事件は、子どもをもつお母さんやお父さんにとって他人事ではありません。離婚や不慮の死などによって、明日から1人で子どもを育てていかなければいけない可能性は、だれにでもあるのです。

子育ては家庭の責任というのが当たり前のようになっていますが、これは戦後の高度経済成長期から始まった都市部の核家族化によってできあがったモデルです。もともと、子育ては血縁や地縁でサポートしていくことが、日本の当たり前でした。とはいえ、地方でもコミュニティが脆弱化していきている今日では、家族単位の子育てモデルを変えるのは難しいでしょう。であれば、家族単位の子育てを、支援する社会的制度や仕組みを構築することが絶対に必要です。私たちは、そういう観点から政治に対して声を上げていくことが、ますます重要になっていくと思います。

また、私たちの周りから、子どもは社会みんなで育てるものだという意識や雰囲気を醸成していくことも必要です。例えば、子育てで忙しいお母さんに、近所の人が「手伝えることがあったら言ってね」などと声をかけたり、子どもを抱えながらバギーを片手に持って駅の階段を昇り降りしているお母さんに、「手伝いましょうか」と声をかけたりすることでも、お母さんは励まされている、サポートされていると感じて、心がホッとするものです。また、子どもが熱を出したときなど、職場の同僚達が気兼ねなく休めるようにしてくれれば、シングルマザーでも子育ての質を落とさずに済みます。いますぐにでも、私たちができることはいっぱいあるのです。

逆に、人が子どもの悪い行動などを注意すると、怒る親がいます。子どもが注意されたことを、ふがいない親への注意のように感じて反発したり、子どもを親の所有物のように思っていて、勝手に口出ししないでと反発したりするからでしょう。そういう姿勢だと、周囲の人は手を差し伸べづらくなります。すると、子育てをひとりで抱え込むことになり、結局、子育ては苦しいままです。親の側も遠慮なく周囲を頼り、子どもはみんなで育てていくという意識をもつことが必要です。この連載の第2回で述べましたが、近所で行われている子育て教室のようなところに参加し、知識や頼りあえるママ友を広げていくことから始めてみるのが良いのではないでしょうか。

#1 児童虐待は親が悪いから起こる?
#2 何がしつけで、何が虐待?
#3 夫婦間のDVも児童虐待になるの?
#4 虐待の影響は大人になっても続くの?
#5 子育ては家族の責任?

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

  • Facebook
  • Twitter
  • Google+
  • Hatena

連載コラムの関連記事

#2 一度ついた格差は取り戻せない?

2020.1.17

#2 一度ついた格差は取り戻せない?

  • 明治大学 政治経済学部 教授
  • 平口 良司
#1 日本はどうして格差社会になってしまったの?

2020.1.14

#1 日本はどうして格差社会になってしまったの?

  • 明治大学 政治経済学部 教授
  • 平口 良司
現場に目を向け、広い視野で物事を捉えよう

2020.1.9

現場に目を向け、広い視野で物事を捉えよう

  • 明治大学 経営学部 専任講師
  • 鷲見 淳
#5 TOBもM&Aも、一般の生活者には他人ごと?

2019.12.20

#5 TOBもM&Aも、一般の生活者には他人ごと?

  • 明治大学 商学部 教授
  • 名越 洋子
煮詰まったときこそ芸術に触れ、固定観念を破ろう

2019.12.19

煮詰まったときこそ芸術に触れ、固定観念を破ろう

  • 明治大学 経営学部 専任講師
  • 早川 佐知子

Meiji.netとは

Meiji.net英語版

新聞広告連動企画

新着記事

2020.01.15

自殺未遂者の再度の自殺を防ぐ有効な支援プログラムがある

2019.12.18

グローバルとローカルの出会いを幸せにするグローカリゼーション

2019.12.11

医師の労働時間の改善が、より豊かな医療の実現に繋がる!?

2019.12.04

日本独特の発酵食品をつくる麹菌は日本にしかいない!?

2019.11.27

博物館や美術館には、新たな発見や不思議な出会いが満ちている

人気記事ランキング

1

2020.01.15

自殺未遂者の再度の自殺を防ぐ有効な支援プログラムがある

2

2017.10.04

精神鑑定は犯人救済のために行うのではない

3

2017.10.18

ゲーテッド・コミュニティの実態に迫り、その“可能性”を探る

4

2019.07.31

万葉集に由来する「令和」に込められた、時代にふさわしい願い

5

2016.05.23

インバウンドとアウトバウンドが逆転した日本が、 観光立国へ向けて…

Meiji.net注目キーワード

【注目!】連載コラム