2024.03.14
- 2018年4月24日
- リレーコラム
#4 虐待の影響は大人になっても続くの?
加藤 尚子 明治大学 文学部 教授虐待のダメージは、人生を台無しにしてしまうこともある
虐待を受けた子のケアやサポートをしていると、心を開いてもらうことがとても難しいことを実感します。まず、大人に対して不信感をもっているので、関わりをもとうとする大人に対しても、自分にとって良い人なのかどうか試そうとします。これを試し行動と言います。親であれば叩くような悪いことをしてみて、反応を見るのです。そのとき、叩いたりせず穏やかに注意をすると、この人は親とは違うと思うのですが、すると、今度は不安になってきます。自分が知っている大人と違うからです。そこで、もっと悪いことをしたりします。どこまでやったら叩かれるのかを確かめるのです。しかし、その裏には、この人は自分のことを叩くような大人ではないのかもしれない、本当に受け入れてくれる人なのかもしれない、だったら、自分のことを嫌いにならないでいてくれるかな…、という不安も大きく広がっているのです。だから、私たちはその子の行動だけに目を向けるのではなく、行動と気持ちの両方に目を向けます。それを根気強く繰り返していくことで、子どもはだんだんと落ち着いていきます。実は、子どもは試し行動を意図的に行っているわけではありません。無意識のうちにそういう行動にはしるのです。子どもの心をここまで追い込んでしまうのが、虐待なのです。
人は信用できないという強固なイメージができあがってしまう15〜16才くらいになると、対応はもっと難しくなります。人に自分のことは委ねられないので、すぐに喧嘩腰になったり、自分が相手のことを支配しようとしたりします。手を差し伸べても、裏に魂胆があるのではないかと疑い、人の好意をそのまま受け入れられません。また、相手が良い人だとわかっても、どこかで裏切られるかもしれない。だったら、先にこっちが相手を利用しようなどと考えます。これでは、社会で良い人間関係を築くのは難しく、定職について生きていくのも難しくなってしまいます。その結果、犯罪に至ることもあるのです。あるいは、自分に自信がなく、人を信用することもできないので、自分の将来に肯定的な思いをもつことができず、無気力になったり、投げやりになったり、引きこもりになる場合もあります。
マスコミなどが大きく報道する虐待死だけが、虐待が引き起こす悲惨な帰結ではないのです。
次回は、虐待をなくすために私たちや社会ができることについてお話しします。
#1 児童虐待は親が悪いから起こる?
#2 何がしつけで、何が虐待?
#3 夫婦間のDVも児童虐待になるの?
#4 虐待の影響は大人になっても続くの?
#5 子育ては家族の責任?
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。