明治大学の教授陣が社会のあらゆるテーマと向き合う、大学独自の情報発信サイト

金融機関の先進的リスク管理の落とし穴 ―理論的限界を踏まえた数学モデルの活用へ―

松山 直樹 松山 直樹 明治大学 総合数理学部 現象数理学科 教授

数学モデルの限界とリスク管理

松山直樹教授 「RAPM」の分母を計測するリスク尺度も問題を抱えている。リスク管理の世界で最も普及したリスク尺度であり所定の信頼水準での最大損失額を意味するVaR(バリュー・アット・リスク)には「劣加法性(リスク分散効果)」がないという欠陥があることは周知の事実である。そのVaRの弱点を克服するものとしてES(期待ショートフォール)が登場したが、これも多期間リスク計測で重要な「時間的整合性(Time Consistency)」に関する欠陥がある。また、一般的なリスク尺度はリスク量が投資量に比例するという「正同次性」を前提としているが、市場の取引規模の限界から、投資量が極端に大きくなると投資量以上にリスクが急増する現象があり、ノーベル経済学賞受賞者らが設立した著名なヘッジファンドLTCMもそのことが原因で破たんしている。さらにいうと、そもそも期待収益やリスクの計測のベースとなる確率モデルが信頼できるのかという根本的問題も存在する。何度でも繰り返し観測できる物理現象と異なり、社会現象や金融現象は本来再現不能なものだからである。こういった事実から、少なくとも機械的な「最適化」には慎重であるべきことがわかる。しかし、それでもなお、人間の認知限界を広げるという意味ではリスク管理に数学モデルを用いることの有用性は大きい。問題は、理論的限界を踏まえて数学モデルを使う必要があるということである。単に新しいモデルを提案していくだけでなく、理論的限界を明らかにしていくことも、アカデミズムの社会的責任だと考えている。

※掲載内容は2014年9月時点の情報です。

>>英語版はこちら(English)

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

社会・ライフの関連記事

「権利」、「法」、「自由」について、私たちは誤解していないか

2021.6.21

「権利」、「法」、「自由」について、私たちは誤解していないか

  • 明治大学 法学部 特任教授
  • 森際 康友
違憲判決を社会に活かすために必要なのは

2021.6.16

違憲判決を社会に活かすために必要なのは

  • 明治大学 法学部 准教授
  • 辻 雄一郎
人と機械の関わり方から、人と人のコミュニケーションを考える

2021.6.9

人と機械の関わり方から、人と人のコミュニケーションを考える

  • 明治大学 総合数理学部 教授
  • 小林 稔
再生可能エネルギーを当たり前にするために必要なこと

2021.6.2

再生可能エネルギーを当たり前にするために必要なこと

  • 明治大学 総合数理学部 准教授
  • 浦野 昌一
少子高齢化ではない、少子超高齢に突入した日本社会の危機

2021.5.26

少子高齢化ではない、少子超高齢に突入した日本社会の危機

  • 明治大学 専門職大学院 ガバナンス研究科 教授
  • 加藤 竜太

新着記事

2021.06.22

同じ志を持つ人との関係を、大切にしよう

2021.06.21

「権利」、「法」、「自由」について、私たちは誤解していないか

2021.06.17

受け取った“想い”を、次世代へつないでいこう

2021.06.16

違憲判決を社会に活かすために必要なのは

2021.06.10

今日の経験を、未来の自分に活かす生き方をしよう

人気記事ランキング

1

2020.04.01

歴史を紐解くと見えてくる、台湾の親日の複雑な思い

2

2021.06.16

違憲判決を社会に活かすために必要なのは

3

2017.10.18

ゲーテッド・コミュニティの実態に迫り、その“可能性”を探る

4

2021.06.21

「権利」、「法」、「自由」について、私たちは誤解していないか

5

2017.10.04

精神鑑定は犯人救済のために行うのではない

リレーコラム