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金融機関の先進的リスク管理の落とし穴 ―理論的限界を踏まえた数学モデルの活用へ―

明治大学 総合数理学部 現象数理学科 教授 松山 直樹

「ソルベンシーⅡ」導入とERM

 近年、このERMには官民あげて注目が集まっているが、その背景の一つがEUで導入予定の「ソルベンシーⅡ」と呼ばれる新しい保険会社規制である。ソルベンシーは支払い能力を意味する。保険会社は将来の保険金などの支払いに備えて責任準備金を積み立てているが、その積立金を上回る、通常の予測を越えて発生するリスクに対応できる資金的な余力がソルベンシー・マージンである。これを総リスク量で割り算することで得られるソルベンシー・マージン比率は、保険会社の健全性を示す重要な指標の一つであり、規制で一定水準以上にあることが求められ、数値が高いほど健全性が高いとされる。
EUで導入予定の「ソルベンシーⅡ」は、会計基準に基づく簡易なファクターを用いた旧来の保険会社向けソルベンシー規制を現代化するために検討が進められているもので、「3ピラー」(3本の柱)とよばれる銀行の国際的自己資本規制(バーゼル規制)にも通ずる構想が採用されている。第3の柱は市場への広範な情報開示を求めるものだが、第1と第2の柱に大きな特徴がある。第1の柱では、資産および負債は市場整合的な方法により評価した経済価値に基づくことが求められ、その評価のもとでソルベンシー・マージン規制が量的要件として規定されている。これはサープラス・マネジメントとよばれる先進的ALM手法との親和性が高い。第2の柱では、リスク管理の高度化やガバナンスの強化といった質的要件を求めている。この中にはORSA(Own Risk and Solvency Assessment)と呼ばれる量的規制の枠組みを超えたリスクとソルベンシーの自己評価が含まれており、ERMとの親和性が高い。日本でも「ソルベンシーⅡ」の動向を受けて、経済価値ベースのリスク評価の試算やORSAの試行を金融庁が求めるようになったが、ERMは本来自発的に実施すべきもので、規制があるからやるという発想では、本物とは言えないことに留意しなければならない。

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