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2023.08.23

人とペットの幸福な生活は、腸内細菌から

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脂っこい食べ物から引き出す健康効果

 食べ物の成分を腸内細菌によって変換させる研究については、セラミドとは別の方面からもアプローチしています。その一つが、新たに分離された腸内細菌を使って、オメガ3脂肪酸の機能をさらに高めたり、オメガ3脂肪酸のライバルとして働くオメガ6脂肪酸を機能性成分に変化させるという試みです。

 近年、テレビなどでもよく話題になるオメガ3脂肪酸は、サバやサンマといった青魚、あるいはエゴマやアマといった植物に多く含まれる不飽和脂肪酸で、体内で脂肪の取り込みを抑える働きがあることで知られています。

 オメガ3脂肪酸はそのままの形でも機能しますが、特殊な細菌の働きによって機能性成分に変化させると、炎症の抑制など、さまざまな健康効果を一層引き出すことが期待できます。

 とくにヒトは、普段の食生活の中でポテトチップスやラーメンなどたくさんの脂を摂取しています。また、ライフスタイルや食品流通の関係から加工食品を摂取する機会が多く、それらには多量の脂が使われています。私たちの研究室では、そうした普段から口にしている脂肪の一部を有用なものに変換させる細菌を見つける作業をしており、すでにいくつかの候補を発見できています。

 そもそも油成分のマイナスの効果は肥満症の誘発であり、肥大化した脂肪細胞はサイトカインというタンパク質を放出して、体にさまざまな悪影響を与えます。

 サイトカインの放出は炎症症状の一部ですので、免疫機能を高める特殊な細菌によってサイトカイン生成を減らすことで、その炎症を抑えられる可能性があります。つまり、特殊菌の利用により、肥満を抑えられる可能性があります。

 もしかすると将来的に、食べても肥満になりにくい特殊な細菌とセットになったポテトチップスが誕生するかもしれません。

 このように動物と食べ物は、切っても切れぬ関係にあります。世界的には食糧危機やフードロスといった課題が叫ばれる一方で、人々は健康のためのダイエットや、食を通じた美容にも勤しんでいます。

 そうした中にあって、私たちヒトをはじめとする動物と共生関係にある腸内細菌は、無駄をなくして健康に貢献するという点で、今後さらに重要になるのではないでしょうか。

 普段の食事で健康な体を維持することで、新たな薬剤耐性菌の出現リスクのある抗生物質の使用頻度を抑えられるのもポイントです。薬剤耐性菌による未来のパンデミックの予防は人類、ペット動物、家畜動物の全てにおいて喫緊の課題となっています。

 イヌやネコは、飼い主にとって家族のような存在となり、精神面と身体面の両面でヒトの健康を支えています。腸内細菌の研究が進んで機能性ペットフードが普及する時、私たちの生活にも新しいステップが訪れるだろうと思います。


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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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