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2023.08.23

人とペットの幸福な生活は、腸内細菌から

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捨てられる材料を有効成分へ変換

 イヌ・ネコの皮膚疾患に対して、たとえば対処療法的な外科的アプローチをとるよりも、日常的な食事等の内服による予防を目指す方が、動物でも抵抗なく受け入れやすいと思います。費用面でも敷居を下げることになるでしょう。

 また、塗り薬や化粧水だと基本的には塗布した場所のみに作用しますが、食品として機能性成分を摂取すれば、消化官から血流を介して抹消組織である肌に届けられます。結果、より広範囲の細胞の代謝を促したり、保湿性タンパクの合成を促進するなど、皮膚のトラブルを抜本から解決できる可能性があります。

 しかしながら、市場的な目線で考えると、機能性成分を発掘して食品化する過程では、どうしてもコストがかかります。付加価値をつけた商品をペット市場に投入した時、果たして広く受け入れられるかというのも一つの課題です。

 であるならば、普段から食べているものを上手に利用できないでしょうか。いつもは消化吸収できずに排泄しているもの、あるいは体内でうまく変換されないがために栄養効果が発揮できない物質をターゲットにするのです。

 つまり、日常的な食品に、ある種の新しい腸内細菌をプラスすることによって、価値の高い物質に変換してもらうということです。捨てられてしまうものを無駄にせず、有効活用すれば、普段の食事を大きく変えるわけではないので、誰でも利用しやすく、普及効率も高いと思います。

 消化器官に生息する腸内細菌は多種多様で、その数は100兆個以上と推測されています。動物は食事の残骸を餌として腸内細菌に提供し、腸内細菌はその御礼としてさまざまな化合物を代謝産物として生成しています。菌が行っていること自体はシンプルな化学反応で、結合の位置がわずかにずれるだけで生体に及ぼす機能が変わります。

 私たちの研究室では、そうした有用そうな菌の候補を立て、化学物質と反応させて生成物を調べる研究を行っています。

 たとえば、ご飯やパンに含まれているセラミドは肌の細胞の活性化につながる性質を持っていますが、そのままでは吸収されません。私たちは、セラミドを化学変化させて、体内で分解し吸収されやすくする腸内細菌を世界で初めて発見しました。

 また、新種の腸内細菌を使ってセラミドを有効活用させると、シミの元になるメラニンの生成が低下したり、皮膚炎や大腸炎を発症した動物の炎症が低下することも明らかになっています。

 現段階では実用化までは達していませんが、目標としては、フリーズドライや加工食品等を通じて有効な菌をイヌ・ネコが摂取できるようになればよいと考えています。将来的には産学協同で、腸内細菌利用型の機能性ペットフードの開発に取り組みたいです。

 また、さまざまな細菌を活用できれば、食べ物をつくる過程で生じる無駄を削減することもできるでしょう。実は、食品の製造や加工の工程で廃棄される部分にも機能性成分が含まれていることがあるのです。

 たとえば、こんにゃく芋を例にすると、ゼリーなどに使用されるマンナンという成分を抽出した後は、残りのほとんどが捨てられてしまいます。その破棄部分に含まれているある種の脂質や糖を、細菌の力で有効成分に変換し、それを薬剤やフードに活用できないでしょうか。

 食料問題は世界的な課題ですから、このように限られた資源・素材を活かしつつ付加価値をつけ、新たな商品の開発に繋げることは、持続可能な社会の構築に資すると思います。

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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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