
コロナ禍で在宅時間が増えた影響もあり、近年、犬や猫といったペット需要が高まっています。しかし、飼い主にとって避けて通れないのが動物の健康問題。長く一緒に暮らし続けるためには、どうすればよいでしょう? そのひとつのヒントが、腸内細菌にあるようです。
腸内細菌の力で人もペットも健康に
科学や医療の進展に伴い健康寿命が延びており、人生100年時代とも呼ばれていますが、長寿化はヒトだけでなく、イヌやネコといったペット動物にも当てはまります。
都市部を中心に家族の構成単位が半世紀前と大きく変化した現代、イヌやネコはその欠員を埋める伴侶動物として扱われるようになりました。家族の一員として大事に扱われることで、平均寿命が伸びていると考えられます。
しかしながら、高齢化に伴い種々の疾患も現れるようになりました。中でも皮膚疾患や消化器系の疾患はイヌ・ネコ共に上位を占めており、その予防や治療が望まれています。もちろん、ペット動物に限らず、ヒトもまた肌のトラブルはつきもので、乳児から高齢者に至るまで幅広い年代の方が悩みを抱えています。
皮膚トラブルの問題は、皮膚と環境中のアレルゲン因子の接触に起因しますが、炎症を鎮静化するか進展させていくかは、食べ物やストレスも関係してきます。イヌ・ネコで問題となる消化器系の疾患の原因も、やはり食物とストレスの影響が大きいです。
そもそも、食品に含まれる成分の大部分は、動物の身体をつくる材料や身体を動かす燃料として利用されます。その一部には身体の機能を整える効果を発揮するものがあり、機能性成分と呼ばれています。
ところが、そのような成分の多くはそのままでは利用できない形で存在しているため、通常の食事としての摂取では生理機能を発揮できないことがあります。
そこで協力してもらうのが、宿主と共生関係にある細菌たちです。消化管内には多くの細菌が生息しており、それら腸内細菌の中には動物には無い能力を備えるものが存在します。つまり、細菌だけが行える化学反応があるのです。
その様な特殊な腸内細菌を活用し、食べ物に含まれる成分の分子構造を少し変化させて機能性分子に変換することで、皮膚のバリア機能や免疫機能を高めることができると考えられます。
私たちの研究室では、この特殊な腸内細菌の能力を生かし、イヌやネコの皮膚疾患や消化器系の疾患の予防、治療に役立つ食品を開発することを目標として研究を行なっています。
またイヌ・ネコはヒトと食性が近く、また排泄物のサンプル調達も比較的容易です。その消化メカニズムや食べ物と体の調子の関係等を解明することで、ヒトの健康にも貢献することが期待できます。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。