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2023.05.24

心理学でいまの自分を知れば、未来の自分を変えることもできる

心理学でいまの自分を知れば、未来の自分を変えることもできる
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日本では超低金利が長く続いています。その金融政策の意図のひとつに、個人の貯蓄から投資への促進がありました。しかし、日本人の貯蓄志向は変わらず、投資の割合は低いままです。その金融行動のメカニズムを、心理学から解明する研究が本学で行われています。

心理学は人の志向を捉える「尺度」づくりから始まる

佐々木 美加 初めての人に会ったとき、多くの人が、その人の社会的カテゴリーに即して判断するのではないでしょうか。例えば、性別や年齢、学歴、就いている職種などです。確かに、そうしたカテゴリーごとに人の特徴が見られることもあります。

 しかし、その人と実際につき合ってみると、そうしたカテゴリーにとらわれない、ある意味、意外なその人らしさにふれ、その人の個性や行動パターンなどがわかってくることも多いのではないでしょうか。

 このことは、政策などの立案にも関わります。社会の動きとは、人々の様々な行動によって表れるものだからです。ですので、社会的カテゴリーのみによって人の行動を予測し、理論的で合理的な政策を立てても、上手くいかないことが多いのです。

 つまり、社会的カテゴリーによって一概に人を判断することは、とてもおおざっぱなことなのです。さらに、そうしたカテゴリーからステレオタイプ的な判断が活性化されて偏見を生むことも少なくありません。

 女性だからこうだろうとか、高齢者だから、若者だから、こんな支援が良いだろうといった偏見に陥ることは多様性や人権を無視することにもなりかねません。

 とはいえ、日本の全国民と長くつき合って、それぞれの個性を捉えることも、また、不可能な話です。そこで、役立てられるのが心理学なのです。

 心理学というと、なんらかの心理テストを実施して、人をいくつかあるタイプのひとつに見立て、そのタイプに沿った行動パターンなどを捉える作業と思っている人も多いかと思います。

 一見、そう見えるかもしれませんが、その場合でも、最も重要な部分は、人をタイプ分けすることではなく、そのタイプの特性を測る「尺度」を作ることなのです。

 実は、人の特徴を表す特性も、そのための尺度も、既存にあるわけではなく、そのときの調査や研究の目的に応じて、心理学者自身がまったく何もないところから作っていくものなのです。

 例えば、私は、日本人の金融行動パターンについて研究しています。人にはそれぞれ、預金を好んだり、投資を好む金融行動がありますが、こうした異なる志向がどういう動機づけによって生じるのか、その心理的な要因や、メカニズムを解明することを目指しています。

 そこで、まず、人の特性を、可視化するために有用な尺度を求めることから始めるのです。

 例えば、性別や年齢なども、ひとつの比較の枠組みにはなり得ます。しかし、それは調べたい内容を社会的カテゴリーごとに整理しただけで、実際にある因果関係とは異なる社会的カテゴリーに基づく偏見を生じることにもなりかねません。ですので、尺度の精度を高めることは心理学においては重要であり、再現性が高く科学的に厳密な研究手法を開発してきた分野でもあります。

英語版はこちら

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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