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2022.11.09

食べることで太らないようにする方法が見つかりそう

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あまりの過剰摂取で起こるようになったネガティブな作用

 糖質を摂ると血糖値が上がりますが、すると、インスリンが分泌され、筋肉や肝臓、脳などが血糖を取り込むように促します。その結果、血糖値が下がるわけです。インスリンの働きが鈍ると血糖値が下がらず、糖尿病になることは多くの人がご存じでしょう。

 この糖尿病患者にGLP1というホルモンを処方すると、インスリンの働きが劇的に改善することが知られています。このGLP1は血糖値を下げるだけでなく、脳に到達して食欲を抑制する作用もあることがわかり、体重を下げる、痩せ薬としても大注目されています。

 GLP1はインクレチンと言われるホルモンの一種ですが、同じ仲間にGIPというホルモンがあります。このGIPも、GLP1と同じようにインスリンの作用を増大することが知られていますが、一方で、GLP1とは逆に、脂肪細胞へのトリグリセリドの吸収を促す働きもあることから、体重を増加させることが知られていました。

 どういうメカニズムでそうなるのか、私たちの研究チームがその一端を明らかにしました。

 それは、GIPも脳に到達し、視床下部のRap1という分子の活性化や炎症反応を誘導するからです。

 Rap1が活性化し、炎症反応を起こすと、それは、レプチン受容体の感受性障害を惹起するのです。結果として、食欲が抑制されず、脂肪細胞が蓄積して体重増加に繋がるのです。

 実は、インクレチンは小腸から分泌されますが、糖質や脂質、タンパク質を摂取することで分泌され、特にGIPは脂質に対する刺激により過分泌されます。

 つまり、人が脂質を過剰摂取するようになったことでGIPも過剰に分泌され、それがネガティブ・フィードバックのように視床下部のRap1に作用するのではないかと考えられるのです。

 要は、人の身体には、本来、少ない食糧から得たエネルギーを効率的に蓄積するシステムが備わっていることに加え、食べ過ぎると、それを抑制しようとするメカニズムが備わっているものの、ここ100年ほどの間に、食物をあまりに過剰摂取するようになり、そのメカニズムが作用しなくなったり、逆に、ネガティブに作用するようになっていると言えるわけです。

 では、人は100年以上前の質素な食生活に戻るべきなのかと言えば、理論的にはそうでも、現実的には難しいでしょう。脳が覚えてしまった嗜好性を捨てることは、よほどのことがない限り無理だと思います。

 しかし、一方で、肥満によって起こる病気が多々あることも事実です。ならば、やはり、食によってレプチン抵抗性を抑え、レプチン本来の作用を発揮させることはできないか。つまり、新しい機能性食品の開発ができないかと、私たち研究チームは考えたのです。

英語版はこちら

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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