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原発問題とは、エネルギー問題だけを意味しない

勝田 忠広 勝田 忠広 明治大学 法学部 教授

発展的な議論をしていくことが重要

 いま、エネルギー政策を、気候変動対策と絡めて議論することが多くあります。そのため、そうした対策に適う再生可能エネルギーであれば、無条件に肯定される傾向にあります。しかし、それもまた、感情的で浅い考え方だと思います。

 太陽光発電や風力発電が、地域住民や環境に負荷をかけることもわかってきました。太陽光パネルで使われるレアメタルや半導体が国際政治の道具にされたり、そうした金属の採掘現場で行われていることも問題になっています。

 こうした状況を把握し、深く考えていくには、やはり、様々な意見や情報をもった人たちが話し合っていくことが必要です。感情をぶつけ合ったり、意見が異なるというだけでその人の人間性を否定したりするのではなく、敬意をもち、様々な意見に耳を傾けながら話し合っていくことです。

 意見の異なる人でも、地球や自分たちの生活を良くしたいという思いは、おそらく、みんな同じです。だから、合意できることが少しずつでもあるはずなのです。だからこそ、敬意をもって接し合うことが重要になるのです。

 もちろん、それでも、簡単に答えは出ないと思います。時間はかかり、全員が満足する正解は出ないかもしれません。

 でも重要なのは、共に正解を目指していく姿勢であり、一つ一つ納得していくステップなのです。

 話し合いや議論に向けての、こうした基本的な考え方が、欧米の人に比べて日本人には欠けているように感じられます。性急に答えを求めたり、熱しやすく冷めやすい傾向があるかもしれません。しかし、日本人は、謙虚に他者から学ぶことも得意なはずです。

 例えば、今年になって、EUが原子力発電をクリーンなエネルギーとして、その推進に投資を促す方針を決めました。

 日本では、EUが原発推進に舵を切ったように報道されましたが、その内容をきちんと調べると、原発プロジェクトにかなり厳しい制限を設けていることがわかります。だからこそ、そのための費用として投資を促しているのです。

 しかも、この方針に賛成するフランスなどがいる一方、ドイツなどは反対の立場です。おそらく、これから発展的な議論がなされていくと思います。

 日本は、EUのこうした議論から様々なことを学ぶためにも、これを他人事と思わず、関心をもち、そして、正しい情報を得ていくことが大切です。

 いま、エネルギー問題を考えることは、私たちはこれからどんな社会を目指すのか、ということを考えることだと私は思っています。

 例えば、原子力発電を選ぶことは、CO2の排出を減らすひとつの手段ではありますが、解決策のない放射性廃棄物の問題を次世代に残したり、先に述べたように、地域間の差別や格差を助長したり、技術的な難しさから、利用の判断や責任を他人任せにしてしまう無責任な社会構造をつくってしまう問題も生じます。

 すると、私たちが原発を選択することは、そのような差別社会、格差社会、あるいは、重要な情報を国民に知らせない非民主的な社会を目指すことと同じにもなるわけです。

 CO2の排出を削減するためには、再生可能エネルギーを活用することはもちろん、省エネ生活や、自家用車を減らして公共交通機関を利用することなど、様々な方法がたくさん考えられます。

 原発はそのひとつに過ぎませんし、それを活用するためには、安全性だけでなく様々なリスクがあることも、私たちは考えなければなりません。

 そのためには、感情的に考えたり、少ない情報や偏った情報で思い込みを強めたり、異なる意見の人を攻撃するのではなく、様々な情報や意見を、受け身ではなく、自ら動いて取得し、自分の中で内省し深掘りしていくことが、いま、最も必要なのだと思っています。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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